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出来事

簡易年表

《大破局》以降、ザルツ地方ではその終焉を元年とするルキスラ帝国暦という年号が使用されるようになり、現在ではそれが「大陸新暦」としてテラスティア大陸一般に広まっています。
 当キャンペーンでは、キャンペーン開始時を大陸新暦308年と定め、物語を展開していきます。また、以下は当キャンペーンに関わる近年の出来事を簡単に表にしたものです。

大陸新暦
元年
《大破局》の終焉 蛮族によって滅亡寸前まで追い込まれながらも、各地で人族が復旧・復興を始める。
293年 《虚音事変》発生 セフィリア神聖王国首都アーレにて《虚音》が響き渡る。《虚人》の大量発生。
295年 ユリウス・クラウゼ即位 若干15歳にして、ザルツ一の大国家の君主となる。類稀な政治手腕を発揮し、大国という微温湯に浸かり腐敗した帝国内部を立て直す。
300年 《蒼銀戦役》勃発 ルキスラ帝国内部での内乱。最終的に皇帝派が勝利を収め、クーデリア侯爵領の自治権を剥奪。その権威を磐石とする。
303年 《蒼き北伐》敢行 ルキスラ帝国、ダーレスブルグ公国の共同侵攻作戦。レーゼルドーン大陸の一部を蛮族から奪い返すことに成功。
306年 《ネベール会戦》勃発 アルフレートⅢ世の活躍により、蛮族の大侵攻は食い止められるが、その後彼はやせ衰え、公国内で「開放派」と「保守派」の対立が激化する。
307年 《黄金戦役》激化、終息 伯爵位のドレイク“黄金”ドゥラージュとルキスラ帝国との戦いが激化。〈蒼鷲騎士団〉や〈蒼き雷の剣亭〉の冒険者らの活躍によって、帝国は勝利を収める。
308年 現在 各地での戦い、公国内での緊張の高まり、技術革新による生活水準の向上など、未だ多くの場所で目まぐるしい変化が起こり続けている。

詳細

 以下に、上の年表に記した出来事の詳細を記述していきます。

ザルツ地方の《大破局》と“救世の聖女”

 300年前の《大破局》以前、ルキスラは単なる地方都市でした。
 ルキスラはザルツ地方一帯を治めていたアウリカーナ共和国に属する都市であり、残されている文献によれば、さほど注目を集める都市ではなかったようです。
 一方で、ダーレスブルグは王国として存在しており、レーゼルドーン大陸の南部を国土として有していました。ルキスラと距離が近かったこともあり、両者の親交はそれなりに深いものだったと伝えられています。アウリカーナ共和国に属する都市でありながら、他国であるダーレスブルグとの関係が深かったのは、大国故の欠陥とも言えるべき点かも知れません。
 やがて、《大破局》の時がやってきました。
《大破局》の第一波である天変地異により、アウリカーナ共和国の主要都市は甚大な被害を被り、政治、軍事の中枢は崩壊。ルキスラとその周辺は、奇跡的に最小限の被害で済んだため、ルキスラはザルツの重要な拠点の一つとなりました。
 その後、凄まじい勢いで北のレーゼルドーン大陸を平らげた蛮族軍は、ダーレスブルグ王国へ掛かる“大橋”を通って、テラスティア大陸北部にも雪崩込んできました。長らく地底に潜んでいた蛮族たちは、地上軍を主力とした白兵戦の得意な軍隊でした。対して人族は、船や飛空船といった乗り物を扱う戦法を得意としましたが、先の天変地異で多くの軍備を喪失していたため、十分な防衛ができませんでした。
 結果、地上戦で押し切られ、ダーレスブルグ王国は勇戦虚しく陥落。またザルツ地方の中央を貫くオッド山脈の地下からも突如蛮族が溢れ出し、東のルキスラや西のフェンディル王国へも襲かかりました。一気に、ザルツ地方も血を血で洗う戦場と化したのです。
《大破局》の最中や直後の詳細な歴史は残されておらず、口伝や噂が入り混じった不確かな情報だけが伝わっています。
 それによれば、ルキスラ周辺を《大破局》から守り抜いたのは、ルキスラ帝国の建国王アレウス・クラウゼ一世とその妹であるアレクサンドリア・クラウゼという二人の人物の功績だとされています。
 建国王アレウスは剣術と射撃に長けた魔法戦士であり、優秀な魔動機師でもありました。またアレクサンドリアはその彼を支える優秀な神官であったと伝えられています。
 アレウス一世は、元々ルキスラの治安を守る方面軍の指揮官であり、僅かな直属の兵力に市民たちの力を加え、果敢に蛮族軍に対抗しました。そこへ亡命してきたダーレスブルグの王族や敗残兵も加え、ひたすら防戦に努めたと言われています。
 アレクサンドリアは、そのルキスラ軍を支える役目を果たしていました。始祖神の神官であった彼女を中心とした複数宗派の神官が入り交じって形成された神官団は、防戦を続けるルキスラ軍の傷を癒し続け、また甲斐甲斐しく世話をし、長期戦に耐えうるだけの力を与えたのです。
 防戦を続けると同時にアレウス一世は都市の要塞化を進め、一大拠点を作り上げました。魔動機師でもあったアレウス一世は、魔動機械の無人兵器も集中的に運用し、少しずつ戦力を増加させていきます。
 しかし、それでも勢いに乗った蛮族を止めるのは酷く困難なことでした。単純な力押しばかりとはいえ、それが彼らの本領でもあり、数で押してくる蛮族を押し返すには“決め手”が欠けていたのです。
 その決め手というのは、人々の結束でした。
 残存戦力を掻き集め、ダーレスブルグの王家とルキスラ軍が集っても、彼らの心は統一されておらず、戦いが長引けば長引く程亀裂が生じていったのです。
 そこで立ち上がったのが、アレクサンドリア・クラウゼでした。
 彼女は人々の結束を強め、彼らに苦境に負けぬ力を与えるためにルキスラに安置されていたとある《神器》に目をつけたのです。
 神器の名は、〈ライフォス胡弓〉。すべての争いを無くす為に、始祖神ライフォスが神紀文明時代の末期に創り出したものでした。その胡弓の音が響けば、世界のあらゆるものから戦意や害意が奪われると言われています。
 ライフォスがそれを運用した際、弦の1本が突然切れてしまったことで魔力が切れ、その隙に戦神ダルクレムが戦いの幕を開いたと神話は語っています。
 事実、胡弓は不完全な状態であり、同時に管理者たちは洗脳とも呼べる胡弓の力を危険視し、使用を禁じていました。
 しかし、それだけの神器の力の一端でも操ることが出来ればこの苦境を脱することが出来る――そう信じたアレクサンドリアは、自らの身を贄と捧げ、神器とひとつとなったのです。
 結果、後に〈救世の胡弓〉と呼ばれるひとつの神器が誕生し、その調べはザルツ地方北部に響き渡り、そこに住まうすべての人々に力を与えました。
 それはまさに洗脳ではなく、明確な人の意志の統一。惜しげも無く自身を捧げ、人々の為に自らを捨てたアレクサンドリアに敬意を表し、人々は力を合わせて戦うことを決めたのです。
 その後アレウス一世に率いられたルキスラ軍は次々に蛮族たちを各個撃破、人族の大反撃が始まります。
 救世の音色に祝福された人族は瞬く間にザルツ地方全土を席巻し、隣国であるフェンディル王国を包囲していた蛮族軍を撃退。オッド山脈の地底に掘られた大トンネルへも攻撃を繰り返し、そのほとんどを爆破、埋没させました。地下に潜んでいた将軍級の蛮族も、そのほとんどが倒されています。
 勢いに乗ったルキスラ軍は、一度陥落したダーレスブルグの首都も奪還し、ついにはザルツ地方から蛮族軍の本体を完全に追い出しました。
 こうして、ザルツ地方における《大破局》は終焉を迎えたのです。
 役目を終え、力を失った〈救世の胡弓〉とその中に存在するアレクサンドリアは、《大破局》の終焉と共に砕け散ったとされています。神ならざる身で神器を扱った代償は、到底人の身で負いきれるものではなかったのです。
 しかし、人々の心の中に彼女の存在は刻みつけられ、“救世の聖女”アレクサンドリアの名は、今でもルキスラ帝国を中心に伝わっています。

大陸新暦293年 《虚音事変(うつろねじへん)

 15年前、セフィリア神聖王国にて発生した事件です。
 ある日の午後、突如としてセフィリア神聖王国の首都アーレに後に《虚音》と称される謎の音が響き渡り、それを聞いた人々が次々に体調不良を訴えました。
 すぐさま法王庁の主導で調査が行われ、虚音は同日の深夜には鳴り止みましたが、その影響は大きく、その後も心身に異常を来たし、廃人となった住民も存在しています。
 原因は魔法文明期の強力なマジックアイテムであるアーティファクトの暴走とされており、その管理を担当していた聖職者たちが罪に問われ、拘束されました。
 原因となったアーティファクトは研究の為に残されていたようですが、その危険性を鑑みてやむを得ず破壊したと説明されています。

 問題となった音が虚音と呼ばれるのは、それを耳にした人々が頭や心が空っぽになったような状態になったことからです。

大陸新暦295年 ユリウス・クラウゼ即位

 13年前、ユリウス・クラウゼは若干15歳にして成人と共にルキスラ帝国の皇帝に就任しました。
 その直前、ルキスラ帝国は災厄に見舞われていました。前皇帝が病に倒れ、ほぼ時期を同じくして第1位の皇位継承権を持つユリウスの兄が不慮の事故で亡くなったのです。
 その為にまだ成人を迎えてすらいなかったユリウスに白羽の矢が立つこととなり、国民は15歳の少年に統治される不安に駆られつつも、ルキスラ帝国は新たな局面を迎える事になりました。

 しかし、その政治手腕は国民の想像を遥かに超えるものでした。  彼はたちまち大国が故の平和という湯に浸かり権威を落としていたルキスラ帝国軍及び帝国議会を立て直し、国内の安定化を図ります。
 その後、彼の最大の右腕と言われる“黒衣の宰相”ベアトリス・エインズレイを迎え入れ、帝国は本格的に古代文明の遺物の収集に乗り出しました。
 その中でも大型飛行船の建造に力を入れており、現在では大小を含めて10隻程度の飛行船を所有しているのではないかと噂が立っています。

大陸新暦300年 《蒼銀戦役(あおがねせんえき)

 8年前に勃発したルキスラ帝国内部での内戦の呼称です。
 一部の帝国将校がクーデリア侯爵領の者たちと結託してあまりに急進的なユリウス・クラウゼに反旗を翻しました。
 将校たちは開戦以前にもユリウスの事を急いたような内政、侵略的とも言える外交に対して進言していましたが、ユリウスはそのどれもを聞き入れることはありませんでした。

 開戦の引き金となったのは、皇帝派の雇った傭兵団によるノトル村の襲撃でした。
 ノトル村はクーデリア侯爵領の末端にある小さな農村で、その住民たちの多くは皇帝派でも反皇帝派でもなく中立を保っていました。
 見せしめのように凄惨な方法で殺され、略奪の限りを尽くされたノトル村は壊滅、これを皇帝派の仕業と断定した反皇帝派の将校らは即座にクーデリア侯爵と共に立ち上がり、皇都へ攻め入ろうとします。
 始めこそ反皇帝派が優勢だったものの、皇帝はクーデリア侯爵の蛮族との癒着を明らかにし、民意と正義は皇帝派に流れていき、次第に反皇帝派を追い詰めていきました。

 結果、ノトル村の襲撃も反皇帝派の仕組んだ自作自演で、実際には中立の立場を保ちクーデリア侯爵からも疎まれていたノトル村を壊滅させることが目的だった事が判明。さらにクーデリア侯爵と蛮族との不正な取引の数々も明るみに出、《蒼銀戦役》は皇帝派の勝利で幕を閉じることとなりました。
 クーデリア侯爵はその罪の重さから極刑に処されましたが、反皇帝派の将校らの中には恩赦を受けて罪の一部を免れた者も存在します。クーデリア侯爵だけでなく、その自治議会の罪も問われ、こうしてクーデリア侯爵領は自治権を剥奪されることとなりました。
 これにより、自治権を与えられた貴族たちへの監視の目は強まり、その後ほぼ全ての領が直接的または実質的に自治権を剥奪されていきます。

大陸新暦303年 《蒼き北伐(あおきほくばつ)

 5年前、名目上はダーレスブルグ公国の主導によって行われたレーゼルドーン大陸への侵攻作戦の呼び名です。
 呼称に「蒼き」と冠している通り、〈蒼鷲騎士団〉を始めとするルキスラ帝国の大きな助力を受けて実行されました。
 伝説の英雄と呼ばれるオトフリート・イエイツに率いられた公国・帝国連合軍は破竹の勢いでレーゼルドーン大陸へ侵攻し、瞬く間に霧の街とハーゼとの中間地点にあたるインミスティを解放し、人族の拠点として作り替えました。
 連合軍はその後も北進を続けようとするものの、霧の街以北の守りは堅く、その後はオトフリートを中心とする少数精鋭の調査隊が送られるのみとなります。しかし、「間もなく竜槍山脈を突破し、ヴァルクレア城の近辺に達する」との報告を最後に、調査隊との連絡は途絶えてしまいました。
 その後、インミスティ付近で調査隊の一部の隊員とオトフリートの遺体が発見されます。竜槍山脈まで行ったのは連絡があったことからも確かでしょうが、そこで何が起こったのかは未だに知れていません。

 しかし、レーゼルドーン攻略の新たな拠点であるインミスティを解放した功績は大きく、《蒼き北伐》はダーレスブルグ、ルキスラ両国で高く評価されています。戦いの後、両国民たちは、特に戦いの最中目覚しい活躍を見せていたオトフリート・イエイツと〈蒼鷲騎士団〉を英雄視し、それを派遣したユリウス・クラウゼに対しても同様の目を向けることになります。
 また、ユリウスはオトフリートの英雄的な行動に関してダーレスブルグ国民に対し真情あふれる演説を行なっており、それが公国民たちの心を打ち、《蒼き北伐》以降ダーレスブルグ内でのユリウスへの信頼はかなりのものとなっています。

大陸新暦306年 《ネベール会戦》

 2年前に発生した、ネベール砦付近を舞台とした公国軍対蛮族軍の戦いの呼称です。ネベール砦とは、インミスティ北部に建設された公国軍の大拠点で、現在公国の最重要軍事拠点となっている砦を指します。
《蒼き北伐》以降守勢へ回っていた蛮族軍の反攻として行われた大侵攻であり、霧の街、シェス湖を通じてありとあらゆる種類の蛮族がヴァルクレア城方面より攻めて来ました。これに対し、公国軍はレーゼルドーン大陸に駐在していた者たちを総動員し対処に当たります。しかし、蛮族の数は彼らの想定を遙かに上回っており、本土への支援とルキスラ帝国軍の協力を要請します。しかし、当時ルキスラは不穏な動きを見せ始めていたドゥラージュの軍勢の対処に当たっており、満足に出兵することはできませんでした。
 その為、やむを得ずダーレスブルグ公国中央軍が本国より派遣され、公王であるアルフレートⅢ世がそれを率いました。《蒼き北伐》の際、オトフリート・イエイツという稀代の英雄を失った公国軍には、かつてオトフリートと同様に武門として知られ、また戦術家として名を馳せたアルフレート三世を除いて、それだけの蛮族の大群に対抗することは出来なかったのです。

 かくして、公国軍と蛮族軍は共にネベールに大軍を展開、公国史上稀に見る大規模な陸上戦が繰り広げられました。アルフレートⅢ世は、守りの剣〈ファランダレス〉を用いた作戦を使い、また自身がそれを振るう事によって蛮族軍の将を見事討ち取り勝利を収めました。
 しかし、その戦いでアルフレートⅢ世の負った傷も大きかったのか、《ネベール会戦》の後アルフレート三世は枯れ木のようにやせ細り、驚くほど無気力になり、ついには“剣の折れた剣豪”と揶揄されるまでになってしまいます。王がそのような状況に陥った為、ダーレスブルグにおいて「保守派」と「開放派」の対立が表面化し、現在でも留まる事を知らず激化し続けています。

大陸新暦307年 《黄金戦役(おうごんせんえき)

 伯爵位を持つ女ドレイク、“黄金”のドゥラージュ率いる蛮族軍とルキスラ帝国との一連の戦いの総称です。ドゥラージュの軍勢の中でも際立った能力を持っていた配下たちは“ドゥラージュの11人”と呼ばれ、一連の戦いの中で大いにルキスラ軍を苦しめました。
《黄金戦役》の最後の戦いとなった《パンテーラの戦い》では、ドゥラージュ軍に奪われ、魔法的な強化を施されたパンテーラ砦に、ルキスラ軍が飛空船団を利用した空挺作戦を仕掛けました。領袖であったドゥラージュも、その戦いの最中で〈蒼き雷の剣亭〉の冒険者たちとの決戦によって討たれ、《黄金戦役》は幕を閉じる事になります。
 その後、ルキスラ帝国軍によるドゥラージュ軍残党の掃討が積極的に行われ、戦争が終結してから半年も経たぬ内にドゥラージュ軍はごく一部を除いて殲滅されたといわれています。その一部の中には、“ドゥラージュの11人”の一人である“蒼の蜘蛛”ザガートが含まれており、今も尚ルキスラ軍はその行方を追っています。

 ザルツ地方における蛮族の最大勢力だった黄金の軍勢を排したルキスラ帝国は、地方一の大国という地位をより確かなものとしました。戦いの後、ルキスラ帝国はさらに領土を広げ、西はフェンディル、南は自由都市同盟の近辺までその勢力を伸ばしています。