虚ろの輪音

第三部 序話「始動-虚ろなる世界-」 - 03

GM
解散した後、ヤンファは一人、ユリウスの部屋を訪れた。
ヤンファ
一応扉の前で、ノック
#ユリウス
「……空いている」 中からは、相変わらず沈んだ声が返ってくる。
ヤンファ
「入るぜ」 無作法に入ってくる。最早相手がどんな立場かなんて忘れたように
#ユリウス
「…………」 それを咎めるでもなく、窓際の椅子に座って灰色の“音”の降る外を眺めている
ヤンファ
「はッ、相変わらずざまあねえ表情だな」
#ユリウス
「……ああ、そうだろうな」
ヤンファ
「そんな顔じゃァ、もう誰も皇帝となんて思わないだろうなァ」
#ユリウス
「……この世界では、その地位も、意味を持たないだろう」
ヤンファ
「あァ、やっぱりな」 その言葉に肩を竦め
ヤンファ
「諦めてやがる」
#ユリウス
「……」 諦めている、という言葉に、ヤンファへ向けかけていた視線を再び逸らす。
ヤンファ
「今、お前がどんな気持ちかは解らねえがなァ」
ヤンファ
「俺も、シャルも、エリカも、結果的にお前に色々奪われたんだぜ」
#ユリウス
「……ああ。……君たちだけではない。……私は、多くのものを奪ってきた。それこそ、数え切れない程に」 うつむいたまま両手のひらを見て。
ヤンファ
「潰れそうか。その犠牲の数々が、全て利用されていただけに過ぎないと」
ヤンファ
「ただの、虚ろだったと、な」
#ユリウス
「…………とてつもなく空虚な気分だ。……諦念すら、抱いているのかも分からない」
ヤンファ
「だろうな。その顔じゃァ、諦めてないなんて言っても誰も信じやしねえ」
#ユリウス
「……君は、私を笑いに来たのか」
ヤンファ
「そうかもな」 肩竦め  「だが、とりあえず訊きたいことがあるから来た」
#ユリウス
「……訊きたい事?」
ヤンファ
「お前、これからどうするんだ、ってな」
ヤンファ
「俺らはさっきの作戦通り、これから動いていくことになる」
ヤンファ
「で、お前は一人諦めてお留守番か?」
#ユリウス
「……分からない。……自分がどうしたいのかも、どうすべきなのかも、何もかも」
#ユリウス
「……私こそ《虚人》なのかも知れないな」
ヤンファ
「あァ。お前がクラウゼの血なんて引いてなかったら」
ヤンファ
「お前は確実に他の奴らに混ざってただろうよ」
#ユリウス
「……そうだろうな。……じきに、私も本当に《虚音》に侵されてしまうのかも知れないが」
ヤンファ
「それを望むのか。ユリウス・クラウゼ」
#ユリウス
「…………」 首を横に振る。 「……分からないんだ。……私が踏み躙った者たちが、何を望むのか」
ヤンファ
っ、ハハハハッ!」 その言葉に、思わず笑いが出る
#ユリウス
「…………」 嘲るような笑いにも、反応を示さない。
ヤンファ
「てめェ、本当に目が曇ってやがるな」
ヤンファ
「踏み躙られた俺達が、今諦めてないことが見えてないのか」
#ユリウス
「……それは……」
ヤンファ
「一番踏み躙られたエリカは、確かに今俯いてる」
ヤンファ
「でもなァ、アレでもずっとずっと、揉みくちゃにされながらも歩いてきたんだよ」
ヤンファ
「俺らはなァ、てめェらに何度も挫折やら苦行強いられてきたんだよ。そう、何度もな」
ヤンファ
「それを何だ。てめェは一回折られてそんなになってんのか」
#ユリウス
「…………」
#ユリウス
「……君たちは、強いな」
ヤンファ
「あァ。そんで、てめェは弱い」
#ユリウス
「……ああ、そうだな」
ヤンファ
「それを自覚しろ、ユリウス・クラウゼ」
ヤンファ
「自分の弱さを知ってからだ。お前も生きてる。終わってなんかない」
ヤンファ
「まずはその自分の手を眺めること止めて、周りを見てみることだな。お前の周りの奴らをよ」
#ユリウス
「……周囲の、人間か」
ヤンファ
「そんなことしてこなかっただろ、てめェは」
#ユリウス
「……そうだな。……私は、今まで自分しか見ていなかった」
#ユリウス
「……君の言葉、心に置いておく」
ヤンファ
「そうかィ」 ならいい  「案外、自分を見てくれてる人もいるモンだぜ」
#ユリウス
「……ああ」 その言葉には、静かに頷いた。
ヤンファ
「ま、俺もまだやることあるんでなァ。これで失礼する」   「……あァ、そうそう」
ヤンファ
踵を返そうとしたところを振り向き
#ユリウス
「……ん?」
ヤンファ
「俺の立場もお前の立場も関係なく、もう“ユリウス”って呼ばせて貰うぜ」
ヤンファ
「変な遠慮は要らねえ。てめェも気に食わないことがあったら気兼ねなく言えや」
#ユリウス
「……。……ああ、構わない」 予想外の台詞に一瞬呆けるが、素直に頷く。
ヤンファ
俺も周りにいる、という意味合いを残し、そのまま去っていった
#ユリウス
……」 ヤンファの姿を見送った後、窓の外をもう一度眺めてから、ゆっくりと立ち上がった。
#ユリウス
「……周囲の人間、か」 つぶやきながら、扉の方へと身体を向けて。
#ユリウス
その扉へと手を掛けて、ゆっくりと開いた。
ソルティア
「……あ」 扉を開けた先には、剣を一本下げて首に青い鳥のついたネックレスをつけた、ラフな格好のソルティアがいる。
#ユリウス
「……君も来たのか」
#ユリウス
「……訊きたい事でもあったか?」
ソルティア
「あ、えぇ……先ほど、ヤンファさんがここから出て行くのを見まして」
#ユリウス
「……そうか」
ソルティア
「今回の出来事に関しては、特には」 と首を振り。 「……まぁ、恨み言の一つくらいは言っておこうかと思ってましたがね」 肩を竦める。
#ユリウス
「……私に言いたい事など、数え切れぬ程にあるだろう。……いくらでも言うといい」
ソルティア
「言いたい事、ですか。そうですね……少しは元気が出ましたか?」
#ユリウス
「……あの瞬間に比べれば、な」
ソルティア
「それはいい事です。この状況ですから、今は少しでも人手が欲しい。まともに動けるのに蹲られていては困りますからね」
#ユリウス
「……まだ、君たちのようには行かないがな。……私は、これ程までに弱い人間のようだ」
ソルティア
「弱い事は罪ではありませんから。責められはしませんよ。僕自身、よくもここまで立ち上がっていられると思いますから」
#ユリウス
「……私は、それ以外にも糾弾されるべき事をたくさん引き起こして来たのだ。……君たちとは、違うさ」
ソルティア
「あ、今ちょっとイラッと来ました」
#ユリウス
「……そうか、済まない」
ソルティア
「違う事を言い訳にされちゃあ困りますよ。それで済まされる話じゃないんですから。こちとら今回の事態のせいで愛すべき義妹にお腹ぶっ刺されてきてんですから」 腕を組んで。
#ユリウス
「……そういう意味ではない。……私は、弱い事だけでなく、責められるべき理由があると言っただけだ」
ソルティア
「……今回責められるべきは弱い事ではなく、立ち上がらない事でしょう」
#ユリウス
「…………」
ソルティア
「貴方が元凶、とまでは言いませんが、今回の事態を引き起こした張本人ではあるでしょう。だからこそ本来、事態を収拾する為にもっとも動かなければならないのは貴方なのではないですか?」
#ユリウス
「……ああ、そう、なのだろうな」 そんな事は、最初から分かり切っている事だ。
ソルティア
「なのだろうな、なんて曖昧な言い方してちゃ気力も出ませんよ。そうなんだ、と言い切ってください」
ソルティア
「肝を据えてください、どっしりとね。……ここまで堕ちたんだ。もう怖いものなどありはしませんよ?」
#ユリウス
「…………」 静かに目を瞑ってから、ゆっくりと目を開く。 「……そう言い切る為には、まだ少し、話さなければならない相手が居るだろう」
ソルティア
「……そうですね。一番話さなければならない相手は、僕ではないでしょう」 と外を見て。
#ユリウス
「済まない。……君への謝罪と回答は、もう少し後にさせてもらう」
ソルティア
「謝罪はいりません。その代わり、事が済んだら少々無理を言わせてもらうので、そのつもりで」 冗談半分本気半分でそう言って笑う。
#ユリウス
「……ああ」 まだ、明確な意志が持てた訳ではない。その先の言葉は口に出さず。
#ユリウス
「……では、失礼する」
ソルティア
「……あぁ、それと」 ふと思い出したように付け加える。 「いい男の条件は、見栄を張れる事、意地を張れる事、格好をつけられる事、らしいですよ。頑張ってくださいね」 軽く手を振って見送る。
#ユリウス
「……いいや、私は悪い男で構わない」 冗談か本気か、そう返して廊下を歩いて行った。

GM
兵舎の周りにも、絶え間なく灰色の音は降り注いでいる。
GM
気温は決して低くはないが、相変わらず、不安を煽り、薄ら寒さを想起させるような光景だ。
#ユリウス
「…………」 そんな中に、一人の少女と話をする為に、ユリウスはやってきた。
エリカ
「……」 ぼんやりと、《虚音》が降り続ける光景を眺めている。
#ユリウス
「……此処に居たか」 どう言葉を掛けるべきか、それに迷って、外に居る事は気付いていたのだが、そんな言葉を口にした。
エリカ
」 はっとして、声の聞こえた方を向き。 「…………何か、用、ですか」
#ユリウス
「……ああ」 小さく頷いて。 「……君の言葉が聞きたかった。嘘偽りのない……私が踏み躙った者の言葉を」
エリカ
「……今更、そんなこと聞いてどうするんですか。言ったところで、貴方の考えは変わらない。そう、自分で言ってたじゃないですか」
#ユリウス
「……ああ。私は確かにそう言った。……だからこそ、だ」
エリカ
「……だからこそ?」
#ユリウス
「……私がどんな想いを胸に歩んできたのか。それをもう一度、思い出したい」
#ユリウス
「……その為にはきっと、君のような者の言葉が必要だ」
エリカ
「…………勝手なこと、言うんですね。散々、いろんなもの奪い取っておいて、こっちが何言っても聞き入れなくて、そのくせ今更そんなこと!」
#ユリウス
「……そうだな」 否定もせず、その言葉をただ受け入れる。
エリカ
ええ。でも、いいですよ。そう言うなら、好きなだけ言わせて貰います」
#ユリウス
「ああ、聞かせてくれ」 真っ直ぐとエリカへ視線を向けて。
エリカ
「まず最初に言っておきます。……私は、貴方が大嫌いです。最初に……〈北伐〉の後、ダーレスブルグで貴方が演説したときからずっと!」
#ユリウス
「……」
エリカ
「私はっ……、私達家族は、父が死んだと聞かされて、悲しかった。家族皆、泣いてた。私も、妹も、お母さんも!」
#ユリウス
「ああ」 その独白を、一語一句聞き逃す事の無いように耳を傾ける。
エリカ
「……貴方は、あの時の演説で、北伐に行って死んだ人が、どれだけ凄いことをしたかって、そんな風に言って、英雄に祭りあげてた。……でも私たちはそんなこと望んでない。私たちは、お父さんたちが無事に帰ってくればそれでよかったのに」
エリカ
「でも皆、貴方の演説に煽られて、同調して……、私は、それが許せなかった。北伐なんて、戦争なんて、悲しいことがあるだけで、いいことなんてないのに。……それから、貴方はずっと私の中で大嘘つきの詐欺師よ」
エリカ
「貴方を父の仇のようにすら、思いもした。…………でも、貴方が、別の側面から見れば、正しいことはしていたんだと……そう、認めて、我慢はしてた。私一人が、どうこう言ったって、どうにかなるわけでもなかったから」
エリカ
だっていうのに!」
エリカ
「蓋を開けてみれば、それこそ本当に貴方が殺したのも同じじゃない! ただの自作自演じゃない!」
エリカ
「……私たちは、お父さんが死んだって聞かされて、みんな、悲しかったけど、それでも頑張って持ち直そうとした」
エリカ
「でも、母さんは過労と心労で倒れて、死んじゃったわ。それからは、私と妹と、二人きり」
エリカ
「妹は重い持病がずっと苦しくて、私は、妹を養うために馬車馬みたいに働くことになった」
エリカ
「先は真っ暗で、けど、それでも、頑張っていれば、いつかは、もしかしたら……そう思って、ずっと、やってきた、のに、こんな」
エリカ
「……ほんとうは、お父さんは生きてたって、わかったけど。でも、そんなの慰めになんかならない。操り人形にされて、ずっといいように使われて、今も……」
エリカ
「……ねえ。私が、妹が、お母さんが、お父さんが、一体何したっていうの?」
エリカ
貴方の、せいよ。貴方が……貴方が、こんなこと始めなきゃ……私の家族は、こんなことにならなかった! 世界だってこんなふうにならなかった!」
#ユリウス
ああ、そうだな」
#ユリウス
「何もかも、君の言う通りだ」
#ユリウス
「……ありがとう。君のお陰で、確かめる事が出来た」
エリカ
「……」
エリカ
ざ、と。ユリウスの目の前まで歩み寄り。
エリカ
ッ!!」 全力で、右拳を、ユリウスの顔に叩きこむ。
#ユリウス
「ッ……!」 それを避ける素振りすら見せず、まともに喰らって少しよろける。
エリカ
!!」 さらに、左拳でもう一度。
#ユリウス
「……っ……!」
エリカ
「っ……はあ、はあ……」 殴った拳が、酷く痛む。
#ユリウス
「……重い、な」
エリカ
「……こんなものじゃ、ないわよ。いくら殺したって、殺し足りないくらい」
#ユリウス
「……ああ」
#ユリウス
「……だが、それでも君はそうしない。それが、君の強さなんだろう」
エリカ
「……貴方を殺したって、死んだ人が帰ってきたり、しない」
#ユリウス
「ああ。謝罪を重ねても、私が死しても、彼らは戻って来はしない」
エリカ
「……それに、皇帝陛下は、生きて、やらなきゃいけないこと、沢山あるはずじゃないですか」
#ユリウス
「……その通りだ。私には、まだ為すべき事が山程ある」
#ユリウス
「だから、私は信念を胸に、歩み続けよう」
#ユリウス
「私には、人々を導く責務がある。……偽りの幸福でなく、彼らが本当の幸福を享受出来るように」
#ユリウス
「理不尽にそれを奪われる者たちを、少しでも少なく出来るように。……それが、私が最初に抱いた信念だったはずだ」
エリカ
「……それも、ありますけど」
エリカ
「もう少し……ちゃんと、家族のこと、大事にするべきだと思います」
#ユリウス
「……家族、か」
#ユリウス
「……そうだな。それも、私には残っていた」
エリカ
「そう、ですよ……」
エリカ
「あの人だって、多分……貴方のこと、心配してると、思います」
#ユリウス
「……そうだといいな」
#ユリウス
「重ねて、感謝する。……そして、君がこれ以上家族を失わぬよう、皆が不幸にならぬよう、私は持てる力を全て注ぐと、此処に誓おう」
エリカ
「……やめてください、感謝なんて。……貴方は、貴方のやること、やってくれれば、それでいいです」
#ユリウス
「……そうか。……分かった。これ以上は、謝罪も感謝も、口にすまい」
エリカ
「……」
#ユリウス
「……あまり、長く外には居ない方がいい。頃合いを見て、中へ戻るといい」
#ユリウス
そう言って、ユリウスは踵を返す。
エリカ
「……解ってます」
エリカ
そう言いつつ。視線をユリウスから外し。
#ユリウス
……」 しっかりと大地を踏みしめながら歩くユリウスの目には、強い光が宿っていた。
エリカ
去っていくユリウスを背に向けて、また、先ほどと同じように、ダーレスブルグの方へと視線を向ける。
GM
風景は、変わらない。けれど、皆の心は少しずつ、前を向き始めていた。

GM
遡って、時刻はその少し前。
GM
兵舎から、ほんの少し距離を置いた場所。
GM
周囲は何処も静かだが、この辺りは、一際大きな静寂に包まれていた。
シャルロット
……」 何となく装備を外す気になれなくて、武装したままの姿でその外れまで訪れていた。
シャルロット
誰かを誘うように、ゆったりとした足取りでそこまでやってくると、雪のようなソレを見上げて立ち止まる
#アラン
お嬢さん、美人の一人歩きは危ないぜ?」 冗談めかして言いながら、シャルロットに応じるように現れる。
シャルロット
「……」 くるん、と。満足いく場所までたどり着いたことを認めて、踵を返す
シャルロット
「いえいえ。腕利きのナイトがお傍付きしていくれていますから。いえ、プリンス、でしたっけ?」 なんて、茶化すように笑って言う
#アラン
「お前のナイトはヤンファだろうが」 肩を竦めて。 「それに、俺ァ今はプリンスでもねェよ」
シャルロット
「尤もです」 ナイトについても、プリンスについても。素直に頷く
#アラン
「で、どんな話だ? お前の事だ。面白い話を期待してるぜ?」
シャルロット
「んー……色々話したいことはあるのですが、面白くないほうから片付けていきましょう」
#アラン
「面白くない話もあんのか……」 げんなりした顔で。
シャルロット
「アレクサンドリア、ですが。……彼女の目的、何か思い当たることはありませんか?」 そういう立場の人間なら、こっちのしらないことも知ってそうだ。少し、聞いてみたかった質問を投げかける
#アラン
「……アイツの目的、か」
#アラン
「シンプルに考えるなら、復讐だろうよ。自分を陥れたクラウゼとイエイツに対する、な」
#アラン
「……けど、俺にはどうもそうは思い切れねェ」
シャルロット
「復讐、なのであれば……もっと違うことをしていたでしょう」
シャルロット
「私たちが見てきた“ベアトリス”という顔もまた、ある種の真実の顔なのだと思っています」 アランの疑問を肯定するように
#アラン
「……だろうな。嘘じゃ、あそこまでは出来ねえよ」 あそこまでの演技か、奉仕か、そこには言及せず。
シャルロット
「……そうなると、彼女が語った目的……平和の実現ですか。あそこへと至った過程と、動機を掴みたい」
#アラン
「アイツがそうなった理由、ねェ……」
シャルロット
「ただ判然と、“アレクサンドリアを認められないから、倒す”では、私たちは勝てないと思っています」
シャルロット
「だから、はっきりと彼女に突っ返してやらなければなりません。そんなのは、認めない、と」 ぎゅう、と拳を握る。
#アラン
「アイツの事情までも、全部理解した上ではっ倒す、か」
シャルロット
「確かな理由をもって、です。切っ先は研ぎ澄まさなければ、ね」
シャルロット
「……そういうわけです。アランさん、結局こういう間柄になってしまいましたが、折角ですし最後まで私と悪巧みをしませんか?」
#アラン
「奴をぶん殴る理由なら、これ以上ないくらいにあるんだがあん?」
シャルロット
「いえ、事ここに至っては小細工不要だと思いますが……アランさんも何か気付いたら教えて欲しいな、と」
#アラン
「えらく難しい注文をしてくれるもんだなオイ」
シャルロット
「目端の利くアランさんぐらいしか、こういう立ち回りはお願いできないな、と。ヤンファさんは私と同じでガチンコ正面対決ですし」 にがわらいして
#アラン
「……ま、気付くような事がありゃァな。本人に尋ねるのが、一番手っ取り早そうだが」
シャルロット
「面白くない話はそんなところで置いておいて……」 彼女の思惑については、まあそういう考えをしていると話しておきたかっただけなので適当に切り上げる
シャルロット
「『ヤツをぶん殴る理由』? というのは」
#アラン
「アレクサンドリアの野郎をぶん殴る理由だよ。俺としちゃ、大事なモンを踏み躙られただけでも十分過ぎるくらいだ」
シャルロット
「ン兄弟、なんですよね。実感が沸きませんが」 よくよく考えれば顔も似ている
#アラン
「ユリウスとは、正真正銘の、な」 アレクサンドリアは、正直事実確認なんて自分じゃできっこない。
シャルロット
「あの戦いについてきたのは、そういうことだったんですね」 なんて、納得した顔をする
#アラン
「一発くらいはぶん殴っとこうと思ってなァ」
シャルロット
「気は済みました?」
#アラン
「微妙だ。ま、代わりにお前が平手打ちしてくれたし俺が手を出すまでも無さそうだ」 自分たちがやってきた兵舎の方へと顔を向けて。
シャルロット
「……なんだかんだで、お人よしばかりですね、ウチの隊」 同じく兵舎を見て
#アラン
「隊長に影響されたんだろうよ」
シャルロット
「私はあまり良い方向に性格は変わらなかったように思いますよ?」 表に出てから
#アラン
「ンなこたねェよ。より多面的に、人の事を見られるようになったと思うぜ」
シャルロット
「……そうですか? 一応、お褒めの言葉としていただきます」
#アラン
「一応ってなんだよ一応って。なんだかんだ、人のことは考えてる。お人好しな所は、最初から変わってねェしな」
シャルロット
「実際、ユリウスのことはほっといて私のメンタルケアが欲しいぐらいですしね」 冗談交じりに肩をすくめる。目元には疲労の色が濃い
#アラン
「俺でいいならいくらでもしてやるが、ヤンファの奴に怒られそうだしな。アイツに頼んだらいいんじゃねェのか」
#アラン
「隊長殿の為なら、一日くらい代わりに働いてやるぜ?」
シャルロット
「正面切って頼むのも気恥ずかしいもので。……それはそうと、ユリウスは立ち直れると思いますか?」 ユリウス、と呼び捨ててしまってからもう戻しにくくなってしまった
シャルロット
一日くらい変わりに、と言う言葉には、優秀な部下がいると楽が出来ます、なんて軽口で返しておく
#アラン
「……ん、あー……」 若干何とも言い難い顔になって。 「立ち直るさ。間違いなくな」
シャルロット
「……何か引っかかるご返事ですが」 怪訝に返す。
#アラン
「……いや、そう信じてる理由が恥ずかしいっつーかなんつーか」
シャルロット
「聞かせてください。恥ずかしいことなんか投げ出して赤裸々にいきましょう」
#アラン
「……約束してんだよ。セフィリアに渡る前に」
シャルロット
「やくそく」 耳にした言葉を、そのまま反復する
#アラン
「ユリウスは“何があっても、皇帝として帝国を正しく導いて、政争が済んだら、必ず俺を迎えに来る”。俺は、“それを信じて待ってる”ってな」
シャルロット
「……」 そんな風に約束を交わす風景を、鮮やかに脳裏に描けた
#アラン
「……ガキの頃の約束だが、俺は今まで、それを頼りにセフィリアで過ごして来た」
#アラン
「……まったく知らねェ土地だったが、不自由は一つも無かった」
#アラン
「ユリウスがあの手この手で手を回して、俺がセフィリアできちんと暮らせるようにしててくれたからな。……その代わり、絶対にザルツへは渡らせてもらえなかったが」
シャルロット
「なんていうか、不器用なお兄さんですね」
#アラン
「ああ、昔っからそうだ。何でもこなす割に、肝心な所が駄目だ」
シャルロット
「それで、不器用に頑張る兄を見ていられなくてどやしつけに来てしまった、と」
#アラン
「〈弔鐘〉の調査に来たのはマジだけどな。結構苦労したんだぜ? ユリウスの過保護なくらいの監視の目を全部買収したりなんだりするの」
シャルロット
「……何と言うか。アランさんも大概ですよね」 色々やってる
#アラン
「そりゃ聖戦士様だからな。荷物運びから蛮族退治までなんでもござれだぜ」
シャルロット
「でも、人の事は棚に上げてはいけないと思います」
#アラン
「……あん?」
シャルロット
「アランさんも大事なところが抜けています」 まったく、とため息を吐いて
#アラン
「……抜けてるって言葉はお前にだけは言われたくないが」
シャルロット
「お兄さんが心配で仕方ないなら、直接前に出て一発殴って言ってやればよかったんですよ。“お前はなにをやってるんだ”って」
#アラン
「……ま、そうだったかもな」
シャルロット
「兎に角周りで色んなことをして、調べて、支えてなんて面倒なことはいいんです。そこに居るぞってことを示して、安心させてあげれば、人は戦えるんですよ」
#アラン
「傍に居る事の心強さ、か」
シャルロット
「多分、ユリウスは独りだったから、ベアトリスなんて存在に傍に取り入れられてしまったんです」
#アラン
「……だろうな」 沈痛な面持ちになって。
シャルロット
「……今からでも遅くありません。俺は傍にいるぞって、言葉にして伝えてきてあげてください」
#アラン
「……ああ、そうだな。……あの馬鹿兄貴に、言って来てやるか」
#アラン
「“お前を待ってる弟は此処に居るぞ”ってな」
シャルロット
「ええ、そうです。いつまで待たせるんだって、苦情申し立てです」 嬉しそうに笑って
#アラン
「……ほらな。やっぱりこうして、お前は人の事を考えてるんだ」
#アラン
「誰かが欲してる言葉を与えられる。……そいつは、すげえ才能だと思うぜ」
シャルロット
「私はそんな……思ったことを口にしているだけです」 と、手をふって。アランに歩み寄る
#アラン
「思った事がそれなのが、才能なんだよ。……ン?」
シャルロット
「兄想いのけなげな弟に贈り物です。あなたの手から、“戦う力”を渡してあげてください」 そっと、預かっていた剣をアランへと渡す
#アラン
「〈リベラリオン〉……」
シャルロット
「この剣の主は私ではありません。持つべき者が持つ剣です」
#アラン
ああ、分かった。責任を持って、兄貴に渡して来るぜ」
シャルロット
「それと、私の言葉を伝えていただけますか?」
#アラン
「おうよ」
シャルロット
「リターンマッチならいつでもどうぞ」 ぐ、っと握りこぶしを見せて、無邪気に笑ってみせる
#アラン
「流石にそれにゃ応じなさそうだが……」 苦笑して。 「ま、伝えとくぜ」
シャルロット
「負けっぱなしでおわるような方でもないとおもっていましたが」 おや?と首を傾げて
#アラン
「お前との勝負は負けでもいいだろ。アイツにとってもっと大事な戦いは、他にあるはずだ」
シャルロット
「それもそうでした」 なるほど、と手をうつ
シャルロット
「ま、私からの発破はこんなものでしょう。後は、皆が勝手に支えてくれます。ユリウスの持つカリスマは私なんて及びもつきませんからね」
#アラン
「なっさけねえカリスマだな」 みんなに支えられるなんて。
シャルロット
「王族だから一人で何でも出来るなんて、幻想ですよ?」
#アラン
「そりゃ知ってる。お前も姫サンもユリウスも俺も、一人じゃ大した事は出来ねえからな」
#アラン
「……ま、サンキューな。正直、話しに行くか迷ってたんだが、お前のお陰で踏ん切りついたぜ」
シャルロット
「いえいえ。私は話したいことを話しただけですから。感謝の言葉より、お兄さんとの会話に言葉を費やしてください」
#アラン
「男同士にゃそう多くの言葉は要らないもんだ。余り物でも十分だぜ」
シャルロット
「男の子の会話って、良く判りません」 それには苦笑して、そんなものかと頷いて返す
#アラン
「そんなもんだ」 にっと笑って返して。 「さて、んじゃァユリウスの所に行ってくるとするか」
シャルロット
はい。いってらっしゃい」 こちらも微笑み、柔らかく手を振って見送ろう
#アラン
「お前も、ゆっくり出来る内にヤンファとじっくり話しとけよ?」 そう言って、肩越しに手をひらひらと振りながら兵舎の方へと戻っていく。

ヤンファ
ソルティアがユリウスの元を訪れてから少し。君は兵舎の中、テーブルがいくつか並べられた休憩所へ足をふらりと運んだ。
ヤンファ
そこには、一つの席を占領しているヤンファの姿があった。
ヤンファ
「………」 後ろ頭で手を組み、椅子の背凭れに重心を乗せて天井をぼーっと眺めている
ソルティア
「……おや、ヤンファさん」 剣一本と青い鳥のペンダントを付けたラフな格好で兵舎をうろついていたようだ。
ヤンファ
「……ン、よォ」 気が付いたようで、そちらを見
ヤンファ
「なんだァ、お前もさっきユリウスの部屋に向かってたみてえだが。何かあったのかァ?」
ソルティア
「むしろ、ヤンファさんが陛下のところへ行ったのを見たから僕も行ったんですよ。今頃陛下はエリカちゃんのところでしょうね」 と座っているわヤンファに近づく。
ヤンファ
「なんだ、俺がユリウスの野郎をボコってるとでも思って心配したかァ?」 カッカッカと笑いながら、お前も座れよ、と顎で示す
ソルティア
「いえ」 首を横に振り。 「どちらかと言うと、エリカちゃんが陛下に掴みかかってないか心配するところですよ」 小さく笑って、促されたように席に座る。
ヤンファ
「エリカがなァ……アイツ、かなり落ち込んでただろうし。ユリウスが変に刺激してなきゃァ良いが」 大丈夫かねえ
ソルティア
「……いっそ刺激してくれた方がいいかもしれませんね。ある意味では、僕らでは出来ない事ですから」 窓の外を見やって。
ヤンファ
「……ま、確かにな。良くも悪くも、立場が違いすぎる」
ヤンファ
「俺もシャルも、あの野郎に親を奪われた……が、エリカはある意味それより重かったし、な」 同じように外を見て
ソルティア
「家族がバラバラになった原因、と言っても過言ではありませんから……」
ヤンファ
「まさか、あんな形で自分の親が生きてて……しかもあっち側に加担させられてた。普通に生きようとしてた少女が負うような運命じゃァねえよ」
ヤンファ
「流石に、胸くそ悪すぎてなァ。何が女神様だ。何回殴っても気が済まなそうだぜ」
ソルティア
「経験を積んで、強くなったのは確かですが……それでも、根本的な部分と言うのは変えがたいですから」
ソルティア
「僕も、怒りを覚えているのは確かですがね……殴るのは一発くらいで済まそうかとも思いますよ」 戦闘はともかく。
ヤンファ
「……だなァ」   「お前は……あっちの女の分もあるだろうし、な」 あっちの女=ルナティア
ソルティア
「まぁ、そうですが……やはり恩人でもありますからね。アレクサンドリア、と言うよりはベアトリスさん、と言うべきですが」 僅かに顔を伏せて。
ヤンファ
「その恩すら、利用するためのモンだった……例えそうだったとしてもお前はまだそんなことを言えるのか?」
ソルティア
「……その恩が無ければ、恐らく僕はここにいる事すらありませんでしたからね」
ヤンファ
「……じゃ、どうすんだ。このまま事が進んでしまうのを見届けるってワケでもねえだろォ」 恩人を潰すのか、受け入れるのか、それとも別の道を選ぶのか
ソルティア
「当然です。今回の事態は収束させますよ。その為の一発ですからね?」
ヤンファ
「………ふゥん」 迷いはない、か
ソルティア
「お人形の世界で生きるつもりはありませんからね。……それを全く分かっていないベアトリスさんでは無いでしょうし、ね」 あえてベアトリス、と言う名前を使う。
ヤンファ
「ま、十中八九、此処に集結した奴らがそんな結末望んでないことなんかお見通しだろォな」 その上で待ってるとか言ってるんだろう
ソルティア
「えぇ。後は彼女に僕らの手が届くうちにケリをつけなければいけません」 神としての位階が上がると何をやっても太刀打ち出来なくなる可能性もあるしな。
ヤンファ
「その為にはまず三箇所……か」 それぞれの面々を思い出し
ソルティア
「黒騎士、エリカちゃんのお父さんであるアロイスさん。次にルナティア。そして……」 最後は言葉を切り、ヤンファを見る。
ヤンファ
「……公国騎士長、ジェラルド」
ヤンファ
「……ま、一番ツラいのはシャルだろうけどな」
ソルティア
「……こう尋ねるのは失礼かもしれませんが……大丈夫なのですか?」 気遣わしげな視線を向ける。
ヤンファ
「俺にとっても親みたいなモンだが、それに刃を向けるってのは中々」
ヤンファ
「……だが、そんなの俺やシャルだけじゃァねえんだよ」
ヤンファ
「お前だって、エリカだって。自分と家族だったりそれに近い存在に刃を向けなきゃいけねえ」
ソルティア
「……そうですね。刃を向けられたりもしますし」 苦笑、と言うには寂しげな笑みを浮かべて。
ヤンファ
「それを超えなきゃ、俺らの未来なんて在り得ない」
ヤンファ
「別に、殺しにいくワケじゃァねえだろう」 自分に言い聞かせるように。 「まだ、チャンスは残されてる筈なんだよ」
ソルティア
「そりゃそうですよ。ルナに関して言えば、力づくでも取り戻すつもりですしね?」
ヤンファ
「エリカの親父だって、ルナティアだって、ジェラルドのオッサンだって…………ベアトリスだって」
ソルティア
「えぇ。……楽観的かもしれませんが、希望はあると思いますしね」
ヤンファ
「ユリウスも、ああなっちまったが。俺らの元にこうして居るんだ。やれることは、絶対にある」
ヤンファ
「……それが上手くシャルの前で言えたらいいんだがなァ」
ソルティア
「……と言っても、今やるべきは休息を取る事ですが。今のうちにテンションあげすぎると後が大変ですよ?」 はは、と軽く笑う。
ヤンファ
「オイオイ、こんなクールな顔してる奴のどこがテンション上がってるんだよ」 くくっと笑い
ソルティア
「おや、大勢の妹君を持つヤンファさんでも意中のお姫様には口下手になってしまいますか?」
ヤンファ
「るっせェ。案外デリケートなんだよアレでも」
ソルティア
「そうですね……もしかすると、エリカちゃんの次くらいにショックを受けているかもしれませんね」
ヤンファ
「順位なんざどうでもいい。ショック受けねえ筈がねえだろ。アレも自分の親だぞ」
ヤンファ
「俺だって……あの時はショックだったんだからな」
ソルティア
「っと、これは失礼」 と口を押さえ。
ソルティア
「まぁ……僕もまさか、ジェラルドさんが加担してるとは思いませんでしたしね」
ヤンファ
「最初は何か、あんまり好きになれなかったんだ。でも、事件を解決する上で偶に声掛けてもらったりして、支えてもらった」
ヤンファ
「それなのに裏切られて、俺がショックを受けてる。シャルが受けてない筈ねえよ」
ヤンファ
「………」 何となくむしゃくしゃして煙草を取り出し、火を点ける
ソルティア
「……そうですね。シャルロットさんにも、かける言葉に迷いますね。下手に励ますと、また無理をしそうですから……」
ヤンファ
「……ま、何とかする」 すぱー、と煙を吐き
ソルティア
「えぇ。冗談抜きで、今一番良い言葉をかけられるのは、ヤンファさんでしょうからね」
ヤンファ
「……お前が言うとからかってるようにしか思えねェんだが」 はっ、と苦笑し。 「でもまァ、そうだな。約束もした」
ソルティア
「いえ、そんな事は。はっきり言って、ヤンファさんはシャルロットさんの一番近くに居て、一番信頼を受けている存在ですよ」
ヤンファ
「あァ、そいつは素直に受け取っとく。ありがとよ」
ソルティア
「……僕が言っても無理をさせるだけの言葉でも、貴方が言えば彼女の力になります。僕が保障しますよ。頑張ってきてください」 小さく笑い。
ヤンファ
「へいへい。言われんでもやったる、ってな」
ヤンファ
「お前こそ、しっかりやれよ。こんな形で戦うことになるとは思ってなかったが、それでも目的は変わらないだろ」
ソルティア
「何、やってみせますよ。先ほども言いましたが、力づくでも貰っていきます」
ヤンファ
「くく、肝据わったなァ」 ちょっと前にエリカからケツ蹴られてた時と大違いだ
ソルティア
「状況が状況ですからね。もう迷いも何も吹っ飛びましたよ。……あぁ、アカシャを引き取ると決めた時を思い出しますね」 昔を懐かしむように宙を眺めて。
ヤンファ
「なら上等、だな」 ふっ、と笑い。煙草の火をテーブル灰皿に押し付けてジュッと消し、立ち上がる
ソルティア
「もう行きますか?」 立ち上がったヤンファを見て。
ヤンファ
「あァ、さっきのでちょっと自信もらえたっつーか、改めて思い直せたわ。あんがとよ」
ソルティア
「それは何よりです」 穏やかな笑みを浮かべて。いつも通り、というには状況のせいか目つきが鋭く思えるが。
ヤンファ
「落ち着ける状況じゃ、コレが最後だしな。他のやつとも話しておきたい」
ソルティア
「えぇ。夜はまだ長いですから、皆とじっくり話してから行くといいですよ」 本命のところにな。
ヤンファ
「おうよ。そんじゃ、また後でなァ」 そう言って、その休憩所を後にした
ソルティア
「僕はもう少しここで休んでいきますから。また後で」 薄く赤い光を放つ剣を抱え込んで。

GM
皆が一時的に利用している兵舎の一角にある部屋の扉の前に立つ金髪の男が一人。
GM
それは、《アストラム》の一員であり、セフィリア神聖王国の聖戦士としての身分、そしてユリウス・クラウゼの実弟である事を明かしたアランだった。
GM
アランは片手の甲で軽く扉を2度ノックする。
GM
「空いている」
GM
中から帰って来たのは、はっきりとした男の声。
GM
しっかりと聞いてみれば、何処か自分と似ているような声にむず痒い感覚を覚えながら、アランは扉に手を掛ける。
#アラン
「入るぜ」
#ユリウス
「……マリウスいや、アランか」
GM
ユリウスは、窓の近くに立っていた。振り向いて、アランへと顔を向ける。
#アラン
「一応、今もマリウスとして任についてんだがな」 姓は違うが、と付け足して。 「まァ、マリウス・クラウゼに戻るのはアンタが約束を果たしてからだ」
#ユリウス
「……ああ、そうだな」
GM
ユリウスが確かな決意を持って頷くのを見ると、アランは近くの椅子へと腰掛け、足を組む。
#アラン
「いつの間にやら、随分と男前になったじゃねェか」
GM
エリカに殴られ、赤く腫れ掛けているユリウスの頬を見ながら、アランが笑って言う。
#ユリウス
「……これだけで済むとは思っていなかったが、な」 ユリウスも同じく、口元にふっと笑みを浮かべて答える。
#アラン
「そりゃそうだ。どんな理由があったって、アンタがした事は変わらねえ。多くの人間から幸せを奪ったんだ。アンタを殺したいと思う奴はごまんといるだろうよ」
#アラン
「エリカはその典型だ。アンタを憎む気持ちは並大抵のモンじゃねェだろう」
#ユリウス
「……だろうな。彼女にも言われた。どれだけ殺しても殺し足りないくらいだと」
#アラン
「だが、エリカはそれをしなかった。それはアイツの強さだ。普段は自信が無さそうな面ばっかしてるし、見てると不安にさせられる事だって多いが、アイツは本当はそんだけ辛い選択を選べるようなすげえ奴なんだよ」
#ユリウス
「……その上、叱咤までされたよ。彼女は知っているんだな。家族の絆というものを」
#アラン
「そういうこった。だからこそ、俺はアイツにこれ以上家族を失わせたくない。ただ普通に身近な相手と一緒に過ごしたい、そんな当たり前の幸せを守る為に俺たち聖戦士は居るんだ」
#ユリウス
「……私の目的も、そうだったな。この期に及んでようやく、昔の気持ちを思い出した。己の為に己の心を殺し、父と兄を殺し、お前と離れると決意した時の気持ちを」
#アラン
「……はっ、結構結構。分かってんなら俺から殴るのは勘弁しといてやるぜ。本当は一発ぶん殴ってやろうかと思ってたんだけどな」
#アラン
「……」 ふぅ、とアランは一呼吸を置いて。 「……俺は一日たりとも忘れてなんか居ないぜ。アンタと約束した時の事」
#アラン
「クソ忙しい時期で、アンタの周囲には敵ばっかの時期だったってのに、わざわざ時間作って遠くの港にまで来やがってよ」
#アラン
「……不安そうに怯える俺の頭を撫でて、言ったよな。『……必ず迎えに行く。私たちが家族として普通に暮らせる帝国を作り上げた上で』って」
#ユリウス
「その先は、『だからそんな不安そうな顔をせず、私が笑顔でお前を迎えに行けるように、笑顔で待っていてくれ』だったな」
#アラン
「……ああ」 目を閉じて、昔を懐かしむように微笑む。 「それが、俺の支えだった」
#アラン
「アンタが手を回して、生活は不自由ないようにしてくれたが、それでも10くらいのガキにとって、全く知らない土地は不安で一杯だった。辛い事だって数えられないくらいあったんだ」
#アラン
「それでも俺は逃げなかった。兄貴の誓いを支えにして、自分の誓いを全うする為に」
#ユリウス
「……お前の誓い、か。……懐かしいな、『僕は兄さんを信じて待ってる。その間に、兄さんみたいに少しでも多くの人をたすけられるように』」
#アラン
「……そこまではっきり思い出されると恥ずかしいモンがあるな」
#ユリウス
「私にとっては、ようやく思い出せた大事なものだからな」
#ユリウス
「お前はその誓いを護って聖戦士となり、今此処に立っているんだな」
#アラン
「そうだ。だから、アンタだけ約束を果たさねえ、なんて許さねえからな。アンタを待ってる弟は、此処に居る。他の人間だって、ユリウス・クラウゼ陛下を待ってんだ」
#アラン
「アンタは確かに多くの人間から幸せを奪った。だが同時に、多くの人間に幸せを与えて来た。それは俺が保証してやる」
#ユリウス
「……ああ。必ず果たしてみせる。私が積み重ねて来た人々の想いを無駄にはしない。ありがとう、マリウス」
#アラン
「どういたしまして、ってな」 照れ臭そうにしながら立ち上がると、アランはユリウスへ近付き、一振りの剣を差し出す。
#アラン
「ウチの隊長殿からだ。俺の手から渡してやってくれ、ってよ」
#ユリウス
「〈リベラリオン〉……」 ユリウスはその剣をじっと見つめながら、少しの間考え、手を伸ばす。
#ユリウス
確かに、受け取った。誓いの為に、この剣を振るい続けよう」 ぐ、と掴んだ手に力が入る。
#アラン
「ああ」 その様子を見てアランはしっかりと頷いて、剣から手を放す。 「それと、隊長殿から伝言だ。『リターンマッチならいつでもどうぞ』だってよ」
#ユリウス
「……ふふ、実に彼女らしい。そうだな。……では勝負の方法を変えて、どちらがしっかりと護るべき人々を護れるか、で再戦を申し込むとでもしようか」 冗談らしくそう言って、〈リベラリオン〉を腰へと下げる。
#アラン
「それでアイツに勝つのは相当厳しいと思うがな。なにせウチの隊長だ。ま、頑張れよ」
#ユリウス
「彼女の得意分野で勝ってこそ、彼女も私を認めてくれるというものだろう」
#アラン
「……既にそれなりに認めてる気もするが、まぁいいだろ。……用も済んだ、俺はそろそろ行くぜ」
#ユリウス
「ああ、ありがとう。無理はしないようにな」
#アラン
「アンタの方こそな。しばらくは、裏方に回れよ」 言い終えると、背を向けてひらりと手を振りながら退出する。
#ユリウス
「……」 その背中を静かに見送って。 「……見抜かれていたか。〈ファランダレス〉に比べれば随分と軽いものだが……」 呟きながら、腰元の剣を見る。
#ユリウス
「……そうだな。しばらくはマリウスの言う通り、皆の支援に回るとしよう」
#ユリウス
「だが、真に必要となった時には」 ユリウスは〈リベラリオン〉の柄に手を掛け、ゆっくりと引き抜き、眼前に構える。
#ユリウス
その黒き刀身には、ユリウスの双眸と同じく、今までとは違うよりはっきりとした輝きが宿っていた。

シャルロット
アランを見送った後。武装を外しファランダレスだけを身に着けた私服になってぶらついていた。
シャルロット
そうしていると、去っていくアランの姿を再び見る。その手に手渡した剣がない事を見、その足をユリウスの部屋へと向けた

シャルロット
コンコン、とユリウスの部屋をノックして在室を確認する声をあげよう
#ユリウス
「空いている。入るといい」
シャルロット
「失礼します。……見違えましたね」 きい、とゆっくりドアを開いて中へと踏み入る
#ユリウス
「……ああ、君たちのお陰でな」 腰には先ほどまでは存在しなかった剣が掛かっている。
シャルロット
「……その様子でしたら、もう大丈夫そうですね」 ふぅ、と気を抜いた息を吐いて
#ユリウス
「心配を掛けた。……本来ならば、恨み言を言われる立場のはずなのだが」
シャルロット
「いえ。……私の父に関しては、私よりもマグダレーナお姉様へ頭をお下げください。私は……あまり父を父と思えなくて」 困ったような苦笑で手を振る >恨み言を言われる
#ユリウス
「無論マグダレーナにも話はするつもりだ。……が、ジェラルド殿の事もある」 それに関しては、直接関与していた訳ではないが。
シャルロット
「いくつかユリウスん、んん。ユリウスからお伺いしたいことが」 呼び捨てでいいか? いいか。というちょっとした戸惑いを飲み込んで言う 
#ユリウス
「ああ、私に答えられる事ならば。かけ給え」 そう言って、テーブルを挟んだ椅子を勧める。
シャルロット
「では」 ぺこり、と頭を提げて腰を下ろす
シャルロット
「聞きたい事はいくつかありますが……そう。ジェラルド、ルナティア、黒騎士、あの三名についてです」
シャルロット
「ルナもそうですが、ユリウスはお父様が協力者であったことをご存知だったのですか?」
#ユリウス
「……いや」 首を横に振り。 「ルナティアについては、私を通して指示をした事もあった。だが、ジェラルド殿については私は知らされていなかった」
#ユリウス
「……無論、ルナティアについてもアレクサンドリアとあのように繋がっていた事は把握していなかったが」
シャルロット
「お父様は存じませんでしたか……ルナは、アレクサンドリアが伴ってきた配下、ていどの認識だったということですね」
#ユリウス
「……」 再び首を横に振る。 「ルナティアを迎え入れたのは、《蒼銀戦役》の時だ。……その時、アレクサンドリアの提案で彼女に依頼をする事にしてね」
シャルロット
「少々……目的に目が眩んでいたようですね。ユリウスの手持ちカードからすれば、もう少し踏み込んだ情報も得られたでしょうし」 たいして咎めもしない口調で、ただ事実を述べて親指のつめを噛む
#ユリウス
「……ああ。眼が曇っていたと言われたが、反論のしようがない」
シャルロット
「しかし、出会いの時期は同じくしていたのですね。では、ある程度ソルティアさんの事情も飲み込んでいると?」
#ユリウス
「ある程度は、ね。アレクサンドリアやルナティアから聞いた事がある」
シャルロット
「なる、ほど。……まあ、ルナとソルティアさんのことは、彼らが解決するでしょう。その点についてはこの程度でいいです」
#ユリウス
「私が介入してどうなる問題でも無いだろう。それについては、君たちで解決すべきだ」
シャルロット
「私たちが介入するとするなら、事後の政治的ケアぐらいでしょうね。ご協力願いますよ」
シャルロット
「黒騎士殿は? 普段接触することが多かったでしょうが、どの程度“自分”が残っている様子でしたか」
#ユリウス
「…………」
#ユリウス
「彼に関しては、自我というものはほぼ感じられなかった。恐らくだが、余程強く《虚音》の影響を受けているのだと思う」
シャルロット
「つまり、以前の虚ろになった人々に近い、と」
#ユリウス
「直接、アレクサンドリアによって《虚音》に侵されたはずだ。……強度としては、虚ろの蛮族や他の者たちとの比ではないだろう」
シャルロット
「《虚音》による影響……現在中継塔のある区域での影響下にある人々は、黒騎士殿と同様の状態になるまで侵食が進むものなのでしょうか」
#ユリウス
「……はっきりとは分からないが、そうなり得たとしてもそれなりの時間を要するはずだ。アレクサンドリアの力が強まっている今、猶予はあまり無いにせよ、ね」
#ユリウス
「事実、レーゼルドーンの虚ろの蛮族たちはまだ“彼ららしさ”は残っていた」 思い通りに動かせる状態ではあったけど、指示が無ければ普通の蛮族と余り変わらなかった、と。
シャルロット
「ン……そうですか。ですが、アレクサンドリアの意を汲むような精神状態にあると見ていいのですね」
#ユリウス
「ああ、それは間違いないと見ていいはずだ」
シャルロット
「……もうひとつ。ユリウスは“私”についてどの程度知っていますか?」 自分自身、捕らえかねている自分について問う
#ユリウス
「……君について?」
シャルロット
「いえ。私は生まれが特殊だったためか、少し……」 言葉を濁す。
#ユリウス
「オトフリート・イエイツの娘として《虚音事変》の際に生を受け、諸事情からザイア神殿にて育てられた〈ファランダレス〉の《担い手》、私が知っている事実はそんな所だが……」 どうもそういう質問ではないのだろう。
シャルロット
「何もないのなら結構です。自分が何よりわからなくて、困っていただけですから」
#ユリウス
「……残念ながら、その問いに関しては私では力になれそうにないな。済まない」
シャルロット
「……ですが、本当にその程度なのですか? 私が《虚音》に侵食された相手に有効な、特異な加護を使えるのに」 あれ、しらないのか? と首をかしげる
#ユリウス
「君がそのような奇跡を扱えるのは知っている。……だが、同じく《担い手》であるはずの私にはそのようなものは扱えない」
#ユリウス
「……考えられるならば、〈ファランダレス〉か」
#ユリウス
「かの剣には、まだ私たちの知らない何かがあるのかも知れない」
シャルロット
「ファランダレス……あの、私たちの魔剣に人格のようなものが存在しているという話は聞いたことがありますか?」
#ユリウス
「……《呪音事変》の際に現れたものについてならば聞いている。少なくとも、その現象は〈リベラリオン〉に関しては起こっていない」
シャルロット
「……後で、少し魔剣にマナでも叩きつけて共振させてみましょう。何か出てくるかも」 小さく頷いて、自室でやらかすことを決める
#ユリウス
「あまり派手な事をして、マグダレーナに心配を掛けないようにな」
シャルロット
「わ、わたしはそんなことをしてるつもりはありませんよ?」
#ユリウス
「……さて、それはどうかな」 冗談らしく言って。
シャルロット
「さ、て。……普通に考えれば勝機などないのでしょうが」 不敵な笑みを無意識に浮かべて、その事実にはっとして首を横に振る
#ユリウス
「……そうだな。相手は神に等しい存在だ。立ち向かう術など、存在しないのかも知れない」
シャルロット
「ですが、勝ちの目はある。実際、半々ぐらいでしょうか」
#ユリウス
「今はもっと低いだろうが……確実に中継塔の機能を停止させていく事が出来れば、恐らくその辺りまでは持っていけるはずだ」
シャルロット
「そういう、現実的な事実からの計算ではありませんよ。というか、それをこなせば半々と見れますか」 流石だな、とユリウスの慧眼に賞賛を視線を送る 
#ユリウス
「ふむ」 違ったのか、とシャルロットに問うような目を向ける。 「……まぁ、多少は願望も入っているかも知れないが、ね」
シャルロット
「私が言っているのは、多分感性の話です」 どういうことかというと、と苦笑を交えて言う
#ユリウス
「感覚的に、なんとなくだが勝てる可能性はある、と?」
シャルロット
「アレクサンドリアは、自分の目的を達成したいという意志と、自分を止めて欲しいと思っている意志が衝突しているように思うのです」
#ユリウス
「……何故そう思う」
シャルロット
「ひとつ。あの消耗した私たちの前で、私たちを潰さなかったこと」 指を立てる。
シャルロット
「ユリウスもお姉様を害さなかったでしょう。手間隙かけてなお生け捕りにするなんて面倒なことをしなかった」
#ユリウス
「……私も彼女も、必要以上に誰かの命を奪う事はしたくない。そこは共通していたのだろうな」
シャルロット
「ですが、したくない、程度です。それは、決意に欠ける行為ですよ。特に、私たちがアレクサンドリアに対して脅威である以上は」
シャルロット
お姉様は、生き死にに関わらずそう脅威ではなかったのでしょうが、なんて付け加えて
#ユリウス
「確かにそう見る事も出来るか……」 顎に手を当てて。 「他の理由は?」
シャルロット
「ふたつ。ジェラルド……お父様の存在です。ですが……これは、お父様にも関わることでしょうね」 なので、これは直接お父様に伺うとします、と付け加えて
シャルロット
「直接言葉をお父様に投げかけるつもりですが、お父様を擁しているなら、私をコントロールすることもできたでしょうし」 でもそれは一切なかった。
シャルロット
「ま、そっちは答えを乞うご期待、ということで。お父様から答えを貰ったらお伝えしますよ」
#ユリウス
「……成程。理由は分かった。彼女の真意も、考慮に入れておくとしよう」
#ユリウス
「期待している」
シャルロット
「もうひとつ。……ソルティアさんとアランさんが刺された、というように伺いました」 アランにでもきいたのだとおもってくれ
#ユリウス
「……彼らの妹から、だったか」 まあ飛空船の中で話したんだろう。
シャルロット
「……ナンセンスだと思いませんか?」
#ユリウス
「どういうことだ?」
シャルロット
「平和を謳いながら、刃が出てくるような歪んだ世界が、ということと」
シャルロット
「この世界を見せつけながらも、甘い言葉と暖かい家で迎え入れず、毒々しい言葉と冷たい刃で迎えてきたことです」
シャルロット
「モニカさんが健康体になって、ソレこそ幸せそうにエリカさんを迎え入れれば、そこはエリカさんの理想郷できっと彼女は、世界の一員にだってなったでしょうに」
#ユリウス
「……冷静に考えれば、矛盾しているな」
シャルロット
「彼女はまるで、私たちに“世界に来て欲しくない”と思っているかのようだと思いませんか? 言葉だけ、こちらに来いと謳いながら、です」
#ユリウス
「ああ。君の言いたい事は分かる。……だが、何故彼女はそのようなことをする」
シャルロット
「アレクサンドリア彼女もまた、取り込まれた一人なのではないのですか?」 ユリウスへ、切り込むような言葉を投げる
#ユリウス
「取り込まれた……〈胡弓〉に、か」
シャルロット
「それが彼女の“矛盾”です。彼女の意志こそ、この世界に相応しく灰色だ」
シャルロット
「肯定、否定、ない交ぜになって判らなくなった、白と黒の境界が解けた虚ろな世界」 窓の外を眺め、詩を謳う様に呟く
#ユリウス
「…………」 シャルロットに釣られるように、窓の外の灰色の景色を見
シャルロット
「彼女は世界を染めたいながらも、それを止められたいと思っている。私の言う勝機は、そこひとつです」 だから、ユリウスのような現実を見た答えは出せない、と笑っていった
#ユリウス
「……君の方こそ、大したものだ」
#ユリウス
「この絶望的な状況で、それだけ物事を冷静に捉える事が出来るとは」
シャルロット
「あまり、嬉しくないコメントですね」 苦笑する
#ユリウス
「一応、褒めてはいるのだが……済まない、気に障ったかな」
シャルロット
「まだ判らないことが多くて、そんな浮ついた勝機でしか明日を戦う勇気がもてない」 
シャルロット
「でも、おかしいでしょう。それなのに私は“勝てる”と確信していて、これから戦いに赴くことを怖れていない」 手を組み合わせて震えを抑える
#ユリウス
「…………」 その震えは恐れか、武者震いか。その言葉は強がりか、本心か。それを見極めるかのように静かにシャルロットを見つめる。
シャルロット
「こんな出来事が立て続けにあったのに、どこか冷静に見ている自分が居て、状況が透けて見える本当、私はきっとおかしい」 僅かに自虐的に笑って、首を左右に振ると、元の表情に戻る
シャルロット
「多分、アレクサンドリアが灰色であるように、私は白と黒の二面しかないんでしょう。それだけの話です」 そんな風に、会話を打ち切った
#ユリウス
「私は君の事を外面的にしか知らない。故に、君に関しては君の言う通りなのかも知れない」
#ユリウス
「だがこの状況で、私はそんなおかしな君の事を誰よりも頼もしく思っている」
シャルロット
「……」 ユリウスの言葉に、困ったように笑みを返して
#ユリウス
「君自身を、そのように卑下する必要は無い」
#ユリウス
「これ以上の言葉は、より君が信頼する者から受け取るといい」
シャルロット
「……そう、ですね」 参ったな、と小さく呟いて立ち上がる。
シャルロット
「任せてください」 その期待に、存分に応えよう。と、誤魔化したような返答をユリウスに返して背を向ける
#ユリウス
「……何かあれば、またいつでも来給え」 少しばかり不安を感じさせる背中へ向けて、そう言葉を投げ掛けて。
シャルロット
「立ち直りが早いのは結構ですが今夜ぐらい、おやすみくださいね?」 なんて、冗談めかした言葉を残して部屋から出て行こう
#ユリウス
「その言葉は、そのまま返そう。ゆっくりと休んでおき給え」