虚ろの輪音

第二部 第五話「蒼の叡智、灰白の花」 - 01

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ひとつ、頼みがあるんだ」
GM
歳の頃二十代後半程の金色の短い髪の青年が言う。その瞳には、どこまでも真っ直ぐな意志。
GM
そしてその腰には、一つの美しい白い剣が下げられている。
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「私が一番信頼している君にしか頼めない事だ」
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「私たちが、少し前までセフィリアに居た事は君も知っての通りだ」
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「……そして、聖都にあの音が鳴り響いた時に私たちが新たな娘を一人授かった事も知っているだろう」
#ジェラルド
「……ああ」 問われた男は静かに頷く。《虚音事変》そう名付けられたセフィリアの首都での異変。その時に、彼の目の前の男オトフリート・イエイツは第二子を授かる事となった。
#オトフリート
「これも、血の影響なのかな。……その時に、感じたんだ。この子が、次の〈ファランダレス〉の《担い手》で、そして、最も〈ファランダレス〉とその奥に在る何かに近い存在だと」
#ジェラルド
「その他に、もっと具体的な根拠はあるのか」
#オトフリート
「いや、無いよ」 オトフリートは、苦笑しながら首を横に振る。 「だが、意外と私の勘は当たるだろう?」
#ジェラルド
「……まったく。マグダレーナ様がそのような大雑把な性格に育ってしまわれたらどうするつもりだ」
#オトフリート
「それは大丈夫だ。あの子は母親であるセシリアの血を強く引いているからね。多分、私のような性格にはならない」
#ジェラルド
「……そこは親として、お前自身が変わると宣言すべきだと思うのだが」
#オトフリート
「善処はする。でも、なかなか変えられない事もあるんだよ。……まぁ、そんな話はいいんだ」
#ジェラルド
「そうだな。今は置いておいてやろう。それで、頼み事とは何だ?」
#オトフリート
「先に言った子名前は、シャルロットと云うんだが、君にその子の親代わりになって欲しい」
#ジェラルド
「……何?」
#オトフリート
「セシリアは、あの《虚音事変》の日から体調を崩してしまった。医師の見立てでは、《虚音》にやられてしまったらしい」
#オトフリート
「そう長くはないか、あるいは、持ったとしても心神喪失状態になってしまう可能性が非常に高いそうだ」
#オトフリート
「……そして、私も私で、きっと親らしい事も碌にしてやれないだろう」
#オトフリート
「少しずつ、《虚音事変》とシャルロットの誕生についても一部の者たちに広がってしまっている。私がそのまま育てると、世間からの風当たりも強くなってしまう」
#オトフリート
「……この子はいつか、強大な運命に立ち向かって行かなければならない事になる」
#オトフリート
「漠然と感じているだけで、それが何かは今の私には掴めない。これから、私はその“何か”を掴む為に活動していくつもりだ」
#オトフリート
「出来るだけ、この子やマグダレーナを巻き込みたくない。……せめて、彼女たちが大きくなるまでは」
#ジェラルド
「……それで、私に親代わりになれ、と」
#オトフリート
「ああ、僕の周りで、君程実力も人望もあって、信頼出来る人間は他には居ないよ。……ああ、もう一人居るけれど、彼は彼で、ある程度は僕に付き合って貰わなければならないし、彼の子供もまだ小さいしね」
#フーロン
「おう。俺に似て超イケメン臭がぷんぷんするがまだ洟垂れ小僧だからな。手が掛かってしょうがないぜ」 すたっと、オトフリートの横に何処からともなく着地する赤毛の男。
#オトフリート
「……フーロン、一体いつからいたんだ。突然現れるとびっくりするじゃないか」
#フーロン
「その割には全然驚いてなくねェ……?」
#ジェラルド
「……お前たちは二人共もう少し常識というものをだな」
#フーロン
「アーアー聞こえねェ。まァあれだよ、セシリアさんに似て超美人に育つ可能性が高い子を育てたいのは山々なんだが、俺じゃァオトフリートに近すぎるしな。あんま意味がねェよ」
#ジェラルド
「…………」 ジェラルドは腕を組み、静かに考え始める。
#ジェラルド
「……確かに、私は早くに愛する女性を失くし、2人の子を授かる事も出来なかった身だ。子が欲しいと思う事は、それなり以上にはある」
#ジェラルド
「だが、本当に良いのか。男手一人でしか育てられない、私のような無骨な者に大事な子を預けて」
#フーロン
「その台詞、ウチの嫁に聞かれたら絶対『見習ってください、この馬鹿』とか言われるわァ……」
#オトフリート
「……はは。分かっているなら少しは大人しくなった方がいいんじゃないか……なんて、私も言えないか」
#オトフリート
「けど、ジェラルド。私たちはそんな事は思っていないよ。君は誰よりも努力家で、常に他人の事を考えている。そして、決して自分を見失わない。社会で生きる上で、一番大事な事を知っている人だ」
#オトフリート
「だから、君に私の娘を託したい。君の生きる姿を私の娘に見せ、そして、必要な時に彼女の道を開く手助けをしてやって欲しい」
#フーロン
「……俺だったら即答すんのになァ」
#オトフリート
「こら、余計な茶々を入れない」
#ジェラルド
……」
#ジェラルド
「…………分かった、良いだろう」
#ジェラルド
「ジェラルド・ヘリオドールは、この魂を賭して、我が親友の娘を預かり、育ててみせよう」
#オトフリート
そうか。ありがとう」 オトフリートは、その言葉に太陽のような笑みを持ってそう応えた。
…………
#
「……ラルド。……ジェラルド」
#ジェラルド
「……む」 連合軍の駐屯地の外れ。月明かりも届かない、人気の少ない場所に、ジェラルド・ヘリオドールは立っていた。
#ルナティア
「……珍しいわね。あなたが、気付かないなんて」 彼を背後から呼んでいたのは、すみれ色の長髪の女ルナティアだ。
#ジェラルド
「少し、昔を思い出していた」 目を閉じて、もう一度軽く過去に思いを馳せてから、後ろを振り向く。
#ルナティア
「そう。……あなたでも、昔を思い出して呆ける事があるのね。意外だわ」
#ジェラルド
「私とて一人の人間だ。昔を懐かしみ、それに浸る時もある」
#ジェラルド
「して、一体何の用だ。駐屯地の近くでは、私の前には顔は出さないつもりではなかったのか」
#ルナティア
「そのつもりだったわ。でも、このまま少しの間はこの近くに居る事になったし、ついでにね」
#ルナティア
「……この前の事について、文句も言いたいし」 不機嫌そうな表情に変わって、ジェラルドを見上げる。
#ジェラルド
「紅き霧が払われた直後の事か」
#ルナティア
「そうよ。お姫様だろうと誰だろうと、こっちには近付けないでって頼んでおいたでしょう」
#ジェラルド
「ああ、そうだったな。それについては、済まないとは思っている」
#ルナティア
「……全然、思ってないでしょう。あなたに約束を破られたのは、初めてだわ」
#ジェラルド
「マグダレーナ殿下も、シャルロットと同じ血を引いているのだ。私程度では止められぬ事もある」
#ジェラルド
「結果的に、お前にとっては良かったのではないか」 あの場面だけとはいえ、シャルロットの隣に立つ事を実の姉から認められたのだ。
#ルナティア
「……別に。見つからなければ、そのままヤーハッカゼッシュを倒して終わりだったのに、余計な気苦労を増やしてくれたのはあなたよ」
#ジェラルド
「……ふ、お前の口から気苦労などという言葉が出るとはな」
#ジェラルド
「シャルロットたちを見て、変わったか」
#ルナティア
「…………そうね、自分でも、おかしな事だとは思うけど、変わったと思う」
#ルナティア
「皮肉なものよね。此処まで来てから、こんな風になるなんて。もう、世界が変わるのは決まったようなものでしょう」
#ジェラルド
「だろうな。このまま、想定通りに事が運ぶはずだ」
#ルナティア
「そういえば、今まで、気にした事がなかったけれど、ジェラルド、あなたはどうして、こちら側に……?」
#ジェラルド
「簡単な事だ。私も、今の世には不満を持っている。私は人々を護る騎士神の使徒だ。彼らすべてが幸福になれる世界ならば、歓迎すべきだろう」
#ルナティア
「…………そう」
#ルナティア
「……あなたの考えている事、なんとなくは分かった気がするわ。……きっと、あの人はそれには気付いていないでしょうけど」
#ルナティア
「……ふふ、良いわ。友達の父親の事だもの。他の人には、黙っておいてあげる」
#ジェラルド
「……何の事やら」 ふ、と口元だけで笑いながら。
#ルナティア
「それじゃあ、あまり長居はしたくないし、そろそろ行くわ。文句を言えればそれで満足だったから」
#ジェラルド
「ああ、行くがいい。シャルロットの事、宜しく頼むぞ」
#ルナティア
「……言われなくても分かってるわ。治るまでは、彼らに付き合う。……その後は、自分の役目に戻る」
#ジェラルド
「自分の役目、か」 空を仰ぎ、虚空を見つめながらゆっくりと呟く。
#ルナティア
「……それじゃあ、さようなら。また今度、ね」
#ジェラルド
「……ああ」
GM
そうして、ルナティアは闇に溶けるように消える。
#ジェラルド
「感謝する、ルナティアよ」 消えた彼女に聞こえぬように、そう礼を述べて。
#ジェラルド
成程、確かにあの子(シャルロット)には、世界(ひと)を変える力が備わっているようだ」 静かに楽しげに笑みを浮かべながら独り言つ。
#ジェラルド
「だが、一番大きな試練はまだこれから、か」
GM
そう呟くジェラルドの周りには、多くの灰白の花が咲き誇っていた。