- GM
- ――アランからシャルロットに通信が入る少し前。
- GM
- ユリウス・クラウゼは小高い丘に一人立っていた。眼下に広がる蛮族と連合軍の戦いを眺めながら。
- GM
- ふと、その後ろから何者かが歩いてくる気配がする。
- GM
- ユリウスはその気配に振り返る事なく、静かに戦いを見つめ続ける。
- #マグダレーナ
- 「――ユリウス、此処に居たのか」
- GM
- 彼の後ろから現れたのは、マグダレーナ。シャルロットの姉であり、《護り手》の血を継ぐ一人だ。
- #ユリウス
- 「マグダレーナか。一体どうした? 君は霧の街の市民たちの誘導に当たるのではなかったのか」
- GM
- 相変わらず、振り向かずにその声に応える。
- #マグダレーナ
- 「それは私の信頼する者たちに任せて来た。それよりも、今私にしか出来ない事があったからな」
- #ユリウス
- 「……ほう?」 ユリウスの首がゆっくりと動く。鋭く、冷たい蒼い双眸がマグダレーナを見つめる。
- #マグダレーナ
- 「貴方は――いや、貴方たちは一体何をしようとしている」 マグダレーナはその視線にも怯む事は無い。気丈にユリウスの目を見つめ返して問う。
- #ユリウス
- 「何度も言っているはずだ。このレーゼルドーンの地を人族の手に取り戻す、とな」
- #マグダレーナ
- 「違う。それだけならば、貴方たちにはもう出来ているはずだ」
- #マグダレーナ
- 「このレーゼルドーン大陸南部には、もう私たちの敵である蛮族など居ないんだろう」
- #ユリウス
- 「……何故そう思う?」
- #マグダレーナ
- 「ずっと、妙な違和感が積み重なり続けていた」
- #マグダレーナ
- 「《蒼き北伐》の時、父オトフリートは命を落としたが、彼は蛮族に簡単に遅れを取るような人物ではない」
- #マグダレーナ
- 「命を落とす事があるとすれば――それは信頼する誰かに裏切られた時だ。……それに、たった5年で、何の事情もなしに竜槍山脈付近から蛮族が居なくなるとは考えがたい」
- #マグダレーナ
- 「だから、父は蛮族軍以外の原因で命を落とした。違うか?」
- #ユリウス
- 「……」 ユリウスは答えない。
- #マグダレーナ
- 「……今この下で戦っている蛮族たちの出現の仕方も、常識では測れないような、そんな物だ」
- #マグダレーナ
- 「続いて、《ネベール会戦》。あの時、蛮族軍はその気になれば公国軍を一息に飲み込む事すら不可能では無かったはずだ。それだけの規模を誇っていたというのに、我々が『帝国に救援を求め、それを断られ、〈ファランダレス〉を持ち出す』まで、彼らは侵攻の勢いを増そうとはしなかった」 マグダレーナは言葉をと切らせる事なく捲し立てる。
- #マグダレーナ
- 「……そして、結果人族は勝利したが、公王陛下があの状態に陥り、フーロン・シャンリークも命を失う事になった。――目的は、それではないのか?」
- #マグダレーナ
- 「父も、フーロンも、公王陛下も、何者かの計画の障害になると考えられ、真っ先に排除されたのではないのか」
- #マグダレーナ
- 「……今回のレーゼルドーン大陸の攻略においてもそうだ。蛮族軍は、此処ぞという時に隙を作り続けていた。紅き霧による撤退戦の時も、殆ど死者が出ていない。喜ばしい事ではあるが、同時にあり得ない事でもある。あれだけの状況下で、何故あのような事が起こる?」
- #マグダレーナ
- 「……《呪音事変》の直前、一連の事件が発生する直前にシャルロットが冒険者としての活動を始めたが、そのタイミングにも、貴方の作為があったのではないのか」
- #マグダレーナ
- 「彼女が冒険者となった直後から、事件に関わらせ、《呪音事変》において〈ファランダレス〉に触れさせ、連合軍を作り出し、彼女を〈ファランダレス〉の《担い手》として覚醒させる。それが、貴方の狙いなんだろう。――答えろ、ユリウス!」
- #ユリウス
- 「…………」
- #ユリウス
- 「……っく、くく、はは……ははははははッ!」 マグダレーナが言葉を終えると、ユリウスは突如大声を上げて笑い出す。
- #ユリウス
- 「――ああ、そうだ。君の予想は、概ね正しい。さすがは、英雄オトフリート・イエイツの娘といった所か」 ゆらりと一歩、マグダレーナへ向けて足を踏み出す。
- #マグダレーナ
- 「……私は、ずっと貴方の“正義”を信じていた。貴方は、人々の為に如何なる謗りをも甘んじて受け入れ、己の道を進んでいるのだと」
- #ユリウス
- 「くく……ああ、それも正しい。私は、私の正義の為に戦っている。忌々しき愚帝たちから帝国を解き放ち、ルキスラとダーレスブルグに封じられた力を手に入れる」
- #ユリウス
- 「父や兄のような無知蒙昧な者たちには、あの力を任せる訳にはいかない。だからこそ私がそれを手中に収め、管理し、人々を正しく導いていく!」
- #ユリウス
- 「――それがこのユリウス・クラウゼの目的であり、使命だ! どれ程の犠牲を払おうと、私が成さなければ……私でなければ成す事の出来ぬ使命!」
- #マグダレーナ
- 「……そうか。それが貴方の答えか、ユリウス」
- #ユリウス
- 「ああ、そうだ」
- #マグダレーナ
- 「――ならば、私は剣を以て貴方の“野望”を砕こう。誰かを犠牲にして得られる正義など、間違っている」 そう言って、マグダレーナはその剣を構える。
- #ユリウス
- 「……残念だ、マグダレーナ。君もやはり、現実を見る事の出来ない愚者だったということか」 目を閉じ、首を小さく横に振る。
- #ユリウス
- 「だが、恐らく君も、実際に私がその力を手にしたのを見れば考えを変えるだろう。不要な犠牲は、私も払いたくはない。君にはしばし、眠っていて貰おう」 その腰に下げた黒き剣を引き抜き、構える。
- #マグダレーナ
- 「行くぞ、ユリウス――ッ!」 マグダレーナが、ユリウスに向けて一歩足を踏み出す。
- GM
- その瞬間。
- #マグダレーナ
- 「がっ……!?」 突如、一条の光がマグダレーナの腹部を貫く。
- #マグダレーナ
- 「……っ……ぐ、ぁ……やは、り、貴女も、か……」 ごぷ――と口から血を溢れさせながら、マグダレーナがゆっくりと顔を後方へと向ける。
- GM
- その視線の先には、黒衣に身を包んだベアトリスの姿。その手は、マグダレーナへと向けられ、魔力の残滓が手の平で渦巻いていた。
- #マグダレーナ
- 「……シャル、ロット……」 力を失い、剣を手放し、その場に沈むマグダレーナの身体。
- #ユリウス
- 「ご苦労」 ユリウスは冷ややかにそれを眺めると、マグダレーナに近づき、その身体を抱き抱える。
- #ユリウス
- 「4つの封印の内、じきに3つ目が彼女たちによって解かれるだろう。後は、最後の《響の楽園》にて、雌雄を決するだけだ」
- #ユリウス
- 「私たちの悲願まで、もう後僅かだ。行くとしようか、ベアトリス――いや、アレクサンドリア」
- #ベアトリス
- 「……ええ、参りましょう、ユリウス」