虚ろの輪音

第一部 第五話「二つの導のその先に」 - 02

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《呪素》の発生源を止めに行く。その話が決まったのが昨日であった。
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君たちは少しずつ、事件の深層部分へと進んでいってるのをどことなく感じている。
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それに伴って戦いも激化していくだろうと、エリカとソルティアは買い出しのため、店が並んでいる通りへ来ていた。
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といったところで適当に話しながら進むなり、どこかの店を眺めるなりどうぞ
ソルティア
「さて、他には後何が必要何だったっけ?」 こういう時は荷物持ちなのです。
エリカ
「この辺りで買うものはこれくらいじゃないでしょうか? ……ええとソルティアさん、〈ガンベルト〉とか〈弾丸〉って、やっぱりマギテック協会で売ってるものなんですか?」
ソルティア
「そうだね、マギテック協会に行けば確実だと思うよ。そこから品物を仕入れている店もあるかもしれないけど……」 とあたりをきょろきょろ。
エリカ
「あの銃……【シックザール】に必要なのが、特殊な弾丸なんですよね……確か、〈活性弾〉……とかいう」
ソルティア
「あぁ……そうするとやっぱり、協会に行くのがいいかもしれないね」
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そうしてソルティアが辺りを見回しながら歩いていると
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ふと向いていた方向とは逆の肩に、トン、と誰かの肩がぶつかる
ソルティア
「っと……すみません」 侘びの言葉を入れつつ、ぶつかった相手へと顔を向ける。
赤毛の騎士
「おっと……これは失礼しました」
赤毛の騎士
ソルティアが顔を向けると、真面目そうに警邏をしているであろう青年の騎士
赤毛の騎士
その顔は誰かに似ているような気もするし、そうじゃないかもしれない
エリカ
「ソルティアさんが貰った鎧は、確か普通の〈弾丸〉でいいんですよね……」 と。
赤毛の騎士
「お怪我はございませんか?」 肩がぶつかっただけだが、丁寧に謝る
ソルティア
「見回りですか、騎士様。お疲れ様です」 余り相手の顔を確認しないまま、笑顔でお辞儀をして。
赤毛の騎士
「ええ、見回りです。どうやら軍の方が忙しいようで……」
ソルティア
「この情勢ですからねぇ、街の皆も不安がってますよ。騎士様に見回っていただけるのは、ありがたい限りで……ん?」 顔を上げて相手の面影に首を傾げる。
エリカ
「ソルティアさん?」 と、そちらを見。 「?」
エリカ
「……」 ん、ん? と何か引っかかるような。
赤毛の騎士
「こんにちは、お嬢さん。お買いものですか?」 とエリカにも軽く挨拶を交わす
エリカ
「……」 じろじろ見る。なんか。何かに似て……んん? 「……えっ、あ、い、いえまあ、はいそんな感じです……」 慌てて目線そらし。
赤毛の騎士
「……どうか、されましたか?」
赤毛の騎士
真面目な表情で首を傾げる
ソルティア
「あ、いえ、すみません。知り合いの方にとても似ていたもので、つい」
エリカ
「……あっ、ソルティアさんもそう思いました?」
ソルティア
「あぁ、うん。でもまぁ、世界には似ている人が三人いるっていうしね」
エリカ
「すいません、じろじろ見て……あんまり似てるからつい」
赤毛の騎士
「いえいえ、誰かと似ていることなんてよくあることですからお気になさらず」
エリカ
「そ、そうですか……」 気になさらず、と言われてちょっとほっとしつつ。
赤毛の騎士
「それにしても、知り合い……ですか。そういえば、そちらの方はどこかで見かけたことが……」  「あ」
赤毛の騎士
「シャルロットお嬢様と一緒に話しているところを見かけたことがありますが、お友達で?」
ソルティア
「ん?」 一瞬の間に再び首を傾げて。 「あ、はい。たまたま知り合う機会がありまして。神殿長の娘さんだと言うのに、気さくなお方で僕らのような者にも親しく接してくれますよ」 いつもの人の良い笑顔だ。
エリカ
「……」 “おじょーさま”……。 「ああ、シャルロットちゃんの知り合いなんですか?」
赤毛の騎士
「ええ、私も神殿の騎士ですから。シャルロットお嬢様のことも勿論」
エリカ
「お友達、っていうか……」 仕事仲間、って言おうとしたけどしゃるちゃんが冒険者やってるのって普通に知れてるのかしら……。ちら。ソルティア見つつ。 「ええとまあ、そんな感じです」
赤毛の騎士
「神殿でも気さくな言動で振舞ってますが、偶に面を喰らうでしょう?」 控えめに苦笑して。
ソルティア
「はは、彼女はとても素直で真面目ですからね。たまの予想外の言葉をもらうこともあります」 小さく笑って。
エリカ
「……」 やっぱ似てるよなあ。
赤毛の騎士
「……やはり私の顔に何かついているでしょうか?」 首を再び傾げ。内心ちょっとにやにやしつつ
ソルティア
「えぇ、目と鼻と口が」 エリカちゃんへの言葉を引き取って、冗談だと分かるように笑う。
赤毛の騎士
「目と鼻と……それは恐ろしいにも程がある」 釣られて少し笑った
ソルティア
「えぇ、どこかで落としてきてしまったら大変です」 と言いつつエリカちゃんを肘で突いて。 「もう、あんまりじろじろ見ないの」
エリカ
(兄弟……? 親戚……?) うーん。 「あっ、い、いえいえほんとに知り合いに似てるなー、って。似てるって言っても雰囲気とかは全然違うんですけどねっ……」
エリカ
「す、すいません、解ってます、解ってます」 とソルティアに。
赤毛の騎士
「ほう、それほどにまで似ているとなれば、一度でも拝見してみたいものです」 興味深そうに
エリカ
「いやあ、でも、性格は似ても似つかないっていうかなんていうか」
赤毛の騎士
「はは、私もそこまで良い性格はしてませんよ」 と遠慮がちに
エリカ
「だらしないしデリカシー皆無だし……」
赤毛の騎士
「ほう、それはそれは……」 酷いですね、と続ける。言いすぎじゃね!と心の中で呟きつつ
エリカ
「いや、でも騎士さんの爪の垢でも煎じて呑ませたいですよ。いっつも“その気になったらキリッと出来る”みたいに言いつつそんなとこ見たことないし……」
赤毛の騎士
「意外とやってみたら出来る人なのかもしれませんよ?」 と言いつつ
エリカ
「どうでしょうね……」
ソルティア
「ははは……っと、すみませんね、見回りの邪魔をしてしまいまして。僕らはこの辺りで失礼させてもらいます」 とお辞儀
エリカ
「あ、そうですね……ごめんなさい」
赤毛の騎士
「おっと、これは失礼。こちらも警邏に戻らなければ」
赤毛の騎士
「また縁があった時に話しましょう。ええと……」 名前が解らないな、といった雰囲気の顔になり
エリカ
「あ、えーと……エリカ・ケイです」
ソルティア
「ソルティアと申します。〈宵の明星亭〉で冒険者をしておりましてね」 「時折ザイア神殿にも足を運んでいますので、その折はよろしくお願いします」 シャルちゃんに連れられてくんだけどな
赤毛の騎士
「エリカ様に、ソルティア様ですね。成程、冒険者でしたか」   「私はヤンファ、と申します」
ヤンファ
「では、神殿にいらしてお会いしたら是非声をお掛けください」   「では」 一礼し
ソルティア
「ありがとうございます。では……」 同じように礼を返して。
エリカ
「はい」 ぺこ、とお辞儀して。
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赤毛の騎士はそのまま見回りのため去っていった。
ソルティア
「……じゃ、このままマギテック協会まで行こうか、エリカちゃん」
エリカ
「……あ、うん、そうですね」  「……ほんとに似てましたね、顔だけは」
ソルティア
「そうだねぇ。……まさか本人じゃないとは思うけど」 最後に一度後姿を振り返って見て。
エリカ
「まさかすぎますよ、いくらなんでも」 絶対ないない、と言わんばかりに。
ソルティア
「まぁね……じゃ、行こうか」 そのまま協会へ向かって歩き出すのだった
エリカ
「はい」 返しつつ自分も歩き出し。
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振りかえると、騎士の鎧を来て堂々とした態度で警邏にあたっている彼の後姿が見えた
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その姿を再び間近で目にするであろうことは、今の君たちが知る由もなく。
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君たちは買い出しを再開したのであった

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ヤンファが警邏から解放されたのは夕方のことだった。
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程なくして街の風景が茜色に染まる頃、彼は神殿に戻ってきた。
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何を思ったか、彼は神殿の訓練所に顔を出す。
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するとそこには、一人で訓練をしているシャルロットの姿があった。
シャルロット
ッ!」 新しく手にした剣シュヴァルツシルトを己が手の延長線上にすべく、一心不乱に剣を振るう
シャルロット
突き詰めるべきは一心同体。さらに言えば、この頃ソルティアから学んだ魔術と剣術の応用式まで取り入れての訓練だ。
ヤンファ
「…………」 一人、か。と思い、ゆっくりとそちらへ歩み寄る
ヤンファ
「新調した武器で早速訓練とは、熱心なことだなァ」 騎士の格好という本来見慣れた姿で声をかける
シャルロット
っとと」 神聖なる魔法に、盾を主軸にした剣術、重ねての魔動機術は、一つの新たな形としてそこにいる。
シャルロット
「ジャンファさん。こんばんはです」 あはは、と。悪びれた風な顔で苦笑いをして、構えをといた。
ヤンファ
「あァ」 こんばんは、という言葉に頷いて返し 「フェリシアはどうしたァ。代わりにお前の面倒見てた筈だが……無理言って一人で来たのか」
シャルロット
「グリップの革とか、馴染むまで握りこんでおかないと滑ってしまいそうで」 くるん、とひねって鞘へ収める仕草は、昨日今日の剣とは思えまい。
ヤンファ
「まァ、手に馴染むのは大事だがな」 その辺にどっこいしょ、と座り込む
シャルロット
「ここなら警護もいらないでしょう、ということで。フェリシアさんも多忙がちですから、お帰りになられました」
ヤンファ
「……ふゥん、そうか。まァそりゃァ忙しいわな」
シャルロット
「ヤンファさんはヤンファさんは、新しい剣、いかがですか? 所謂、カタナでしたっけ? フーロン様もお使いになっていた」 んだろう、たぶん。
ヤンファ
「ン、あァ」 今は持ってない。腰に下げてるのは騎士用の長剣だ  「まァ、あんま調子は見てねえよ。刃こぼれとかのチェックぐらいだ」
ヤンファ
「必要な時以外はあんま刃を抜きたくねえんでなァ」
シャルロット
「あのカタナ、職人でもないのに良く出来ていました。……お兄様ですかね。剣の何かを良くご存知のようです」
シャルロット
「尤も、魔動機との複合はアンネリースさんじゃないと出来なかったと……そういえば、そうでしたね」 滅多には抜かないことぐらい、昔からだったと今思い出す
ヤンファ
「アイツは見る目あるぜ。あの男“も”中々の才能を持ってやがる」
シャルロット
「……そのようです」 こく、と小さく頷いて笑う。
ヤンファ
「あのお嬢ちゃんはかなりハマってるだろうからなァ、好きこそものの上手なれってか」 
ヤンファ
「……羨ましい限りだ。っとに」 何かを掃き出すように小さく呟いた
シャルロット
「……」 吐き捨てるような仕草に……言葉は聞こえなかったが、思わず沈黙を返す
ヤンファ
「………ンだよ」 シャルが黙り込んだのを見
シャルロット
「最近、ヤンファさんの見なかったような表情を良く見ます」 空を仰ぎながら、独り言のように呟く。
ヤンファ
「……あァ?」 何を言ってるんだてめえは、といった表情で
シャルロット
「らしくない、というやつです。……何か、あったんですか?」 やや、様子を伺うように問いかける。
ヤンファ
「………は、ハ」   「ハハハハ……!」 その言葉にどこか皮肉を感じ、低く笑う
シャルロット
「……笑うことじゃないですよ、ヤンファさん」 困ったように返して。
ヤンファ
「これが笑わずにいられるかよォ……なァにが『何かあったんですか』、だ」 座り込んだままシャルロットの顔を見つめ
シャルロット
「……あの」 思わず眼をヤンファへ向けて、かちあった視線に、驚いて僅かに逸らす
ヤンファ
「てめえだよ」 人指し指をシャルロットに向け
シャルロット
「わたし……です、よね」 そういう返答が返ってくるんだな、とは。薄々思っていた。
ヤンファ
「……なんだァ、ちっとは自覚があったんじゃァねえか」 内心少し驚きを感じつつ
シャルロット
「冒険、出てしまったの……ヤンファさんには迷惑……でしたよね」
ヤンファ
「あァ……!」 地面に付き付けた拳を強く握り 「迷惑だ、とんでもなく迷惑だ……!」
ヤンファ
「親父が死に、てめえのお守に就けられて」
シャルロット
「……はい」 色んな言葉を飲み込んで、静かに頷く。
ヤンファ
「俺が……俺の自由が奪われた……ッ!」 静かに、響かぬ声で憤怒を吐き出す
ヤンファ
「それだけじゃねえ、てめえには十分な力があるってのによォ……!」
シャルロット
「……」 返す言葉も無い。黙って聞き続ける。
ヤンファ
「てめえが我が侭言って一人飛び出して行きゃァ、そのケツぬぐうのは俺なんだよッ!」
ヤンファ
「懲り懲りなんだよ、これ以上は……!!」 立ち上がり、座った目つきでシャルロットを睨む
シャルロット
「……ヤンファさんのお気持ちは、判りました」 僅かな沈黙の後、静かに答える。
ヤンファ
「判るだァ……?」
ヤンファ
「てめえに俺の何が判るってんだよ……ッ!」
シャルロット
「護衛、その任が世襲されているのが問題なんですよね? ……今度の仕事が片付いた後、ヤンファさんは好きなことをしにいけるよう、わたしが進言しますよ」 淡い笑みでわらいかけて、力なく応える。
ヤンファ
「………はッ」 その応えに、鼻で笑う。信じ切れないのだろう
シャルロット
「何が判るかですか」 一瞬言葉を選ぶように躊躇った後に応える
シャルロット
「ヤンファさんが、わたしと同じぐらいに子供だったということぐらい、今の会話で判りました」 言われっぱなしで終われないのか。切り返すように言葉を飛ばす
ヤンファ
「ンだとォ……ッ」 怒気を含めつつ、シャルが続けるのを伺う
シャルロット
「中途半端に人に言われたから護衛をして、つまらないから遊び歩いてそれがヤンファさんの言う“自由”なんでしょう?」 その姿勢は、斬り合いに挑む剣士のものだ
シャルロット
「貴方はどこに居ますか。上辺を変えて、名前を上塗りして、得られたものはなんですか? 応えてください、“ジャン”さん」
ヤンファ
「………ッ」 返す言葉を失う
ヤンファ
「うるせえ……!俺が好きにやってて何が悪い、俺が何を失おうと何を得ようとてめえには関係ねえだろうがッ!!」 やけくそに口を開くと、荒い言葉
シャルロット
「お父様が遺された言葉の、いったいいくつがヤンファさんの血肉になっていますか。……その、“裏”でしか形にできない剣は、ヤンファさんの表れではないんですか?」 ひるまず言葉を重ねて、さらに畳み掛ける。
シャルロット
「私は!」 関係が無い、という言葉に、思わず声を震わせて
ヤンファ
「ッ!?」 急に声を荒げて叫んだ彼女に一瞬動揺し
シャルロット
「……ヤンファさんを、大切な人だと思うことも、赦してはいただけませんか?」 震える声は、感情を押し殺したが故か。うつむいたまま表情を見せずに、力なく言った。
ヤンファ
「………ぇ……?」 その震える声、悲しげにうつむくその様相。目で見、耳で聴き、頭が真っ白になる
ヤンファ
「何の、こと……だよ。何言ってるんだ、お前……」
シャルロット
「……護衛の人だといわれたから、ヤンファさんに守ってもらってるわけじゃ、ないんですからね」
シャルロット
「師を同じくして剣を学び、親しくさせていただいたヤンファさんだったから護衛を、お願いしていたんです」
ヤンファ
「お前……」 先程までの感情が逆流し、言葉が出ない
ヤンファ
「そんな……俺はお前のこと、迷惑だとか言ったのに……」
シャルロット
「押し付けられた好意は、得てして鬱陶しいものなのかもしれませんね」 迷惑だ、という発言に対して、そんなふうに自虐的に微笑み返してきびすを返す。
ヤンファ
「………ッ」 寂しげな微笑みを見、漸く我に返る 「待て、シャル!」
シャルロット
「私は、居てはいけない人間なんだとか、要るだけで迷惑なんだとか、そんなことで悲観的になる気は更々ありません。だから、その言葉で私が不用意に傷ついたりもしないから、安心してください」 声を僅かに震わせたまま、背中越しに
シャルロット
「……だから、ヤンファさんはヤンファさんの、自分の道を探してください」 待てという言葉に、進めかけた足を止めて
ヤンファ
「………!」   「違う!俺はそういうつもりじゃ……!」 慌てて駆け寄り、その後ろ姿の肩を掴み
シャルロット
」 力なく緩んだ瞳で、一瞬見返してすぐに視線を切る
ヤンファ
……ッ」 視線をすぐに切られ、居たたまれない気持ちになるが首を横に振って振り切り
シャルロット
「次の仕事、頑張りましょう! 大変な下水を通って行かなきゃいけないんですから」 次が最後かもしれない。そんな言葉を裏に潜めて、なお明るく掛け声をかける
ヤンファ
「……シャル!」 無理矢理押しだしたその声に
シャルロット
「……どうしたんですか? 大丈夫です、ちゃんとフェリシアさんにはお願いしますから……」
ヤンファ
「……違う!」 シャルの両肩を掴み、首を横に振る
シャルロット
「や、ヤンファさん……?」 きょとん、とした顔でヤンファを見上げ
ヤンファ
「正直……お前の言う通りなんだよ。俺は何も得られてない」
ヤンファ
「それをどこか薄々感じてて、何かを得て育っていくお前を見て、俺はイラついてたのかもしれない」 真剣にシャルを見つめる瞳に怒気は含まれていない
シャルロット
「私は、まだまだ子供のままですよ。世界のこと、何も知らないからこうやって吼えて居られるんです。ヤンファさんは……もっと、大変だったでしょうから」
ヤンファ
「子供でも良い。それでも色々手にしていくお前が羨ましかった……嫉妬、だったんだよ」 先程とは一転し、申し訳なさそうに
シャルロット
「……私が今いっぱい手にしたものは、一人で手に入れたものじゃないんだって存じてますか?」 エリカにソルティアに、ヤンファもいたからこそなんだ
ヤンファ
「それは……」
シャルロット
「それに、ヤンファさんは手にあるくせに判ってないフリをしているからいけないんです」 肩に置かれた手の片方に、手を重ねて
ヤンファ
「……手厳しい、なァ」 困ったような、まだ申し訳ないような、そんな風に苦笑する
シャルロット
「そういってくれた今なら言えます」
ヤンファ
「え……?」
シャルロット
「“地這刃”私が手にしてからずっと眼を背けていた秘剣。私が妬ましいなら、私から奪い取る心意気で会得しませんか?」 ぎゅ、と。重ねられた手から熱が伝わる
ヤンファ
「……知ってたのか」 俺が目を背けていたことを
シャルロット
「私と剣を交えて訓練してくれないのは、そういうことだと思っていました」 ソルティアに声をかけたのも、きっとヤンファが相手にしてくれないと思ったからだ
ヤンファ
「はは……そこまで悟られてるとはホント恐ろしいモンだ」 参ったな、と頭を掻き
シャルロット
「だいたいですね……サボっているヤンファさんは使えなくて当然ですが、手に血が滲むほど頑張っても“瞬刃”が使えない私に、謝罪の一つぐらいいただきたいものです」
ヤンファ
「だが」 人差し指をビッとシャルの目の前に出し
シャルロット
「妬ましいというなら、ヤンファさんのその血と才能のほうがはい?」 だが、と鼻先につきつけられて
ヤンファ
「これでも本家の矜持ぐらい持ってるんでなァ。会得は自分でさせてもらうぜ」
シャルロット
「……はい、そう……ですよね。頑張ってください、ヤンファさん」 
ヤンファ
「その代わり、だ」
シャルロット
「その代わり?」 小首を傾げて
ヤンファ
シャルの背中に腕を回し、ぐっと抱き寄せた
シャルロット
「ふぁ、ぇ、え!?」 びくん、とのけぞって奇声をあげる
ヤンファ
「迷惑だとか、色々言って悪かった」 動揺する彼女を余所に、まずは謝罪の言葉
シャルロット
「え、あ、それは全然気にしてないと……」
ヤンファ
「そんで、ありがとよ。そんな言葉をぶつけられても、大切な人でいてくれようとしてくれて、な」 眼を伏せ、頬を寄せる
シャルロット
「ぃや、と、私は当然のことをぃったまででですね……」 声が裏返る。声が近いのが落ち着かない
ヤンファ
「嬉しかったぜ。危うく落とされるトコだったわ」 その動揺っぷりにククッと低く笑う
シャルロット
「お、落とす? どこにですか、落とし穴なんて用意してないですよ、ヤンファさん!?」 
ヤンファ
「……ははははッ!」 抱きしめる腕に一度ぐっと力を入れてからシャルから離れ
ヤンファ
「やっぱシャルはシャルだなァ」 くっくっくと愉快そうに笑う
シャルロット
「は、はー、はー、はー……」 慣れないことに眼を回しながら呼吸荒く崩れ落ちている
ヤンファ
「どうしたァ、俺の御礼は心臓に悪かったかァ?」 けらけらとからかう
シャルロット
「どうなったって、私は私です。ジャンさんもヤンファさんも、ヤンファさんでしょう?」 全く何をしてくれるんだ。苦情をこめた言葉を返しつつ
ヤンファ
「あァ、そうだなァ」 腰に手を当て、ニィと微笑んで見せた
シャルロット
「……もう」 ぱっと明るくなった表情を見て、文句を言いつつも笑って立ち上がる
ヤンファ
「ま、“太刀”の会得はさておき。景気付けに一丁手合わせといくか」
ヤンファ
「あァ、騎士用の長剣だからちっとは容赦しろよォ?」
シャルロット
「おや。気持ちが浮いてきたからといって訓練をサボっていた方にかける容赦など知りませんね」
シャルロット
遠慮なくおにゅーの剣と、ザイアの盾を引っ張り出しつつ
ヤンファ
「オイオイ勘弁してくれよ……」 やれやれと言いつつ距離を取るために下がり
ヤンファ
「ンじゃァ、始めるぜ」 剣を引きぬき
シャルロット
「ヤンファさん参りますよ?」 とんとん、と。小気味良いステップで距離を取り、盾を前にずっしりと構え
シャルロット
「宜しくお願いします!」 その言葉を合図に、駆け出したのだった