虚ろの輪音

第三部 第四話「心持つ者へ」 - 02

シャルロットは解散した後、使い魔を作る準備の為に自室へ戻ってきていた。
資料片手にゆっくり準備を進めていると、コンコンと扉がノックされる。
シャルロット
はい? どなたでしょうか」
ソルティア
「ソルティアです。少しいいですか?」 聞こえてきたのは、珍しい人の声だ。
シャルロット
「構いませんよ。ちょっと、ちらかってますけど」
ソルティア
「はい、では失礼しますね」 がちゃ、とドアを開けて。 「……あぁ、ファミリアの呪文の準備ですか」
シャルロット
「ようやく、そのぐらいまでできるようになりまして。折角だし、と」
シャルロット
「それで、ご用向きは? なんでしたら、とりあえず片付けますけど」
ソルティア
「相変わらず凄い習得速度ですね……ちょっと散歩にでもお誘いしようかと思ったんですが、それはまた今度にした方がよさそうです。何かアドバイスでもしましょうか」 ファミリアについての。部屋の中に入って扉を閉め。
シャルロット
「そっちは、まあ、なんとか。形になりそうなのでがんばってみます」
ソルティア
「えぇ、その……ま、深い用事でもないんですが。ちょっとお話でもと」 困ったような顔になって頭を掻く。甲冑は置いてきたのか、ラフな服装だ。
シャルロット
「……とりあえず、立ったままで済ませる話でもなさそうですね。どうぞ」 そっとイスを勧める。自分はベッドにでも腰を下ろそう
ソルティア
「はい、失礼します」 と椅子に座って。 「……何から話せばいいのか、ちょっと迷いますけど」 顎の辺りに手を当てる。
シャルロット
「……思いついたことから、手探りで言ってください。考えるより、全部言葉にしたほうが思いは伝わりますよ」
ソルティア
「そうですね」 と頷き。 「……こんな事を今更聞くのもなんですが、シャルロットさんは一体何の為に戦っているんですか?」
シャルロット
「何の、ために……?」
ソルティア
「……僕自身は、ルナの為、アカシャの為、仲間の為……そして、自分の為。自分が幸せだと思える世界の為に戦っている。そういうつもりです」
ソルティア
「エリカちゃんや、ヤンファさんも、同じような理由の為に戦っているんでしょう。……ですが、シャルロットさんは、どこか違うような気がするんです」
シャルロット
「私だけ、違う……ですか」
ソルティア
「なんと言うか、その……もっと広い、広すぎる世界を見ているような……上手く言葉に出来ませんが」 うーんと腕を組んで。
シャルロット
「どうでしょう。結局のところ、私も“自分のため”といって間違いないんじゃないかと、思っていますけど」
シャルロット
「でも、ソルの言うことも判ります。“自分の為”なのに、私はずっと“自分”を正しく勘定に入れずに戦ってきたように思いますから」
ソルティア
「……それが、“普通”じゃない、と言う事なんですか」
シャルロット
「……それも、“普通”のひとつ。私、冒険者になりたかったんです」
ソルティア
「……? 冒険者に、ですか?」 話が急に飛んだような気がして、きょとんとした顔になる。
シャルロット
「それは“自分に何ができるか”を確かめたかったんです」
シャルロット
「箱の中の私は、いったい何ができるのだろう、と。ずっと、答えを求めていた」
シャルロット
「それから、私はファランダレスの担い手として“私にできること”を判り易く頂きました。私は、嬉しかったんだとおもいます」
ソルティア
「…………」 膝の辺りで手を組んで、少し身体を前に倒したまま話を聞く。
シャルロット
「そして、私は“求められた事をかなえる”ことが戦う理由になりました。それが、私の価値のように思えたから」
ソルティア
「…………」 “何をしなければならないか”を考えて生きてきた自分とは正反対と言ってもいい生き方だ。
シャルロット
「ルナのことだって、私が救おうとしたんじゃない。彼女が救って欲しいと願っていたから、私がそれに気付いて、無意識に叶えるようにしていたのかもしれない」
ソルティア
「……なるほど」 その考えは、確かに“自分”の為であって“自分”の為ではない。
シャルロット
「そうして、皆が皆、想いを遂げられるようにしてきました。本当にそう想っているかはわかりません。でも、私はみんなの想いの総体として、戦ってきました」
シャルロット
「……そして今も、根源は変わっていないと思います。未だ、私は良い顔を皆に見せようとしている」
ソルティア
「……そうですね」 肯定の言葉しか返せない。否定するだけの根拠は示す事が出来ないから。
シャルロット
「こんな答えで、良かったでしょうか?」
ソルティア
「……はい。……すみませんね、こんな話を持ち込んで」 困ったような笑顔になって顔を上げる。
シャルロット
「困ったように笑われては、答えたのが申し訳なくなります。もっとしっかり笑ってください」 もう、と腕を組んで
シャルロット
「それに、私にもしたいことが見つかるかもしれません」
ソルティア
「はは、すみません」 と笑顔になって。 「……それと、もう一つだけ、いいですか?」
シャルロット
「いくつでもかまいませんけれど……なんでしょう?」
ソルティア
「はい。……シャルロットさんは、幸せですか? それか、この道の先が幸せに続いてると思いますか?」
シャルロット
「幸せ、ですか。それは、今の“私”にはお答えできない問いかけです」
ソルティア
「……そうですか」 ほう、と息をついて。
ソルティア
「でしたら……この問いは、全て事が済んでから、また。その方がいいですかね?」
シャルロット
「今の“私”が思うままに言葉を紡ぐなら、きっと、それを掴む為に明日を戦うんだ、と言うところでしょうけど。ソルが望んでいるのは、そんな“私”の言葉じゃあ、ないようですし」 今度はこっちが困ったような表情で笑う
ソルティア
「……そうですね。その答えはきっと、僕の望みを映したシャルロットさんの答えなんでしょう」
シャルロット
「ええ。……ご期待ください。答えをお聞かせしますから」
ソルティア
「えぇ。ありがとうございます……また一つ、諦められない理由が出来ました」 小さく笑って。
ソルティア
「すみませんね、突然部屋に乗り込んでこんな事ばかり聞いて。迷惑じゃなかったですか?」
シャルロット
「いえ。私も心を決めなければいけないと思っていたんです。私が私と向き合う為に。ソルの言葉は、背中を押してくれました」
ソルティア
「そうでしたら、本当に嬉しい。……言葉足らずで申し訳ありませんが、これでも心配してるんですよ? 貴女のこと」 誰かの望みを映した姿ではなく、自身そのものの姿を。
シャルロット
「ありがとう、ソル。なんだか、初めて本当の言葉をソルから頂いたような気分です」
ソルティア
「はい。もう偽る必要もありませんから。……きっと、貴女のお陰です」 そう言って笑い、席を立つ。
シャルロット
「……ゆっくりお休みください。ルナに、宜しくお願いします」
ソルティア
「僕の覚悟も決まりましたよ。あの剣には頼らないと、心から言えそうです。……長居しすぎは宜しくありませんから、これで」
ソルティア
「えぇ。一段落ついたら、ケーキでも持たせていかせますよ」 そう言って見せる笑顔は、誤魔化しでない本当のモノ。
シャルロット
「はい」 それ以上言葉は重ねず、笑顔でソルを送り出そう
ソルティア
「では、また明日。おやすみなさい」 ぺこりと頭を下げ、椅子を元の場所に戻すと扉を開けて部屋を出ていく。
ソルティア
部屋の外から通路を歩く足跡が遠ざかっていく。その足音は、淀みの無いしっかりしたものだ。
ソルティア
その音が聞こえなくなり、シャルロットはまた儀式の準備に取り掛かり始めた。

GM
《騎士公城》内、アランに割り当てられた部屋の前。
GM
エリカは一人、そこに立っていた。
GM
部屋の中からは、微かな気配。
エリカ
「……」 ノックするか微妙に躊躇い。やはり自分の部屋へ戻ろうか、などと。
#アラン
「入れよ。折角来てくれたんなら」 誰が来たのかを見抜いたのか、部屋の中からはそんな声が聞こえてくる。
エリカ
そうして、しばしまごついて、 「あっ、ええと、……はい」 結局こうなるわけだ。
エリカ
「お邪魔します……」 とおずおずと扉を開けて。
#アラン
「ああ」 エリカらしい挙動にくっくと小さく笑って。 「よ」
エリカ
「何笑ってるんですか……」 と、少し膨れっ面気味に。
#アラン
「お前らしいな、と思ってな」
エリカ
「……これが私らしいって言うのは、なんか……」 若干ぐぬぬとなるけど、否定しきれないのが余計に悔しい。
#アラン
「悪い事じゃァないだろ」
#アラン
「こんな時でも、自分らしく居られるってのは、結構な事だと思うぜ」 どこか遠くを見るように。
エリカ
「私のは、あんまり褒められるようなものじゃないと思うんですけど……」
#アラン
「ンな事はないだろ。今までみんなと必死こいて走って来たお前がソレなんだ」
エリカ
「……そう、かな。この期に及んでこれって、ちょっと、自分で情けないですけど」
#アラン
「少なくとも、俺はそんなお前を見て安心してるぜ」
エリカ
「えー、と」 違う、なんで私がフォローされてるんだ。
#アラン
「……っくく」 そんな様子を見て、喉を鳴らして笑う。
#アラン
「ま、いつまでも立ってないで、座れよ。茶は出せないが」
エリカ
「……じゃあ失礼して」 適当に椅子に腰掛けよう。
#アラン
「なんつーか……」 頭を掻いて。 「情けねえとこ見せちまったな」
エリカ
「……あ、いえ、別に、情け、なくは」
#アラン
「お前らの前では、最後の最後まで格好良く居ようと思ってたんだがなァ……」
エリカ
「まあ、それなら、アランさんこそ、アランさんなりに必死になった結果なわけで、……ええと」
エリカ
「だからその……」 どうにも言葉がまとまらない。
#アラン
俺はな」
#アラン
「お前たちが、どんな決断を下しても、一人ででも、あの剣を抜くつもりだった」
エリカ
「……」
エリカ
「だった、ってことは……今は、違うんですよね」
#アラン
「……聖戦士として、誰かの平凡な暮らしを護るのが、俺が為すべき事だ」 エリカの問いには、すぐには答えずに。
#アラン
「それに、ユリウスや姫サンが居なくなったんなら、アイツらの代わりに、俺がお前らを護ってやんなきゃなんねェとか、そういう考えもあったんだろうな」
#アラン
「……それも、俺の望みな事には間違いないんだが、さっき、気付かされちまったんだよ」
#アラン
「それ以上に、俺が望んでる事に、な」
エリカ
「……アランさんの、望み?」
#アラン
「ああ」
#アラン
「お前ら四人が冒険者として活動し始めて、割と早い時期に、俺もお前たちと出会った」
#アラン
「……で、フォローしたりフォローされたり、馬鹿やったりなんだりして、挫けそうになりながらも、どうにか此処までやってきた」
#アラン
「一年足らずの短い時間だったが、その時間は俺にとって、紛れもなく幸福だった」
#アラン
「その幸せを、何があっても捨てたくない、ってな」
エリカ
「……」
#アラン
「お前は、どうだ」
エリカ
「私は……」
エリカ
「……正直、冒険者なんて向いてないって、ずっと初めから思ってて」
エリカ
「それは今になるまでも変わらなくて……、なんか、ずっと必死で……とくにここ数ヶ月は特に」 苦笑浮かべつつ。
#アラン
「ここんとこは特に、とんでも博覧会だしな」
エリカ
「辛くて、苦しくて……良いがなかったわけじゃない。でも、手放しに幸福だなんて、そうは言えません。でも……」
エリカ
「そういうこと、全部あったから、なんて言うか……今の私とか、今あるみんなとの……繋がりみたいなものがあって」
エリカ
「……だから、やっぱり、私も手放したくないです。後悔もいっぱいあるけど、たぶん、そういうの含めて私ですから」
#アラン
その中には、俺も入ってるって、考えてもいいモンなのかな」
エリカ
「当たり前です。……アランさんが居なかったら、私、多分、どこかで折れちゃってたと思います」
#アラン
「……そう、か」 その言葉を噛み締めるように聞いて。 「なら、決まりだな。迷う事は何も無ェ」
#アラン
「ありがとよ。お陰で、決心付いたぜ」 立ち上がって、ぽん、とエリカの頭に手を置く。
エリカ
「あ、いえ、ええと……それなら、良かったです」
#アラン
「俺は、俺のままで、お前を護るよ。聖戦士としてだとか、仲間として、だとかじゃなく、な」
エリカ
「……え」 一瞬きょとんとして。 「……あ、え、それって、いや、あの」 しどろもどろ。
#アラン
多分、俺はお前が好きなんだ。本当に大事な物の為に、力不足だろうと必死に頑張れるお前がな」
エリカ
「……」 しばし呆然。 「………………あ、あのっ、その、ごめんなさっ、あっ、ごめんなさいってそういう意味じゃなくて、いきなりでその」
#アラン
「分かってるよ。今すぐにどうだとか、そういう事は求めてない」
#アラン
「いつか、聞かせてくれりゃァいい。だから、必ず、俺たちのままで帰ってこようぜ」 握った拳を、エリカの前に軽く突きつけて。
エリカ
「ああもう……」 色んな気恥ずかしさが混ざって赤くなった顔両手で覆いつつ。
エリカ
「……」 はあ、ふう、と。深呼吸して。 「……解りました。必ず、返事はします。お互い、お互いのままで」 此方も拳握って、こつ、とアランの拳へ。
#アラン
「おう」 満足気ににっと笑って、拳を離す。
エリカ
「……もう」 満足気な顔がちょっと憎たらしいわ。
#アラン
「後は、明日だな。今日はもう、ゆっくり休むとしようぜ」
エリカ
「……そうですね、あとは、明日」
#アラン
「さ、部屋に戻って休め休め。これ以上いたら、手が出ても知らねえぞ」
エリカ
「ばっ、何言ってるんですか!」 がたっと慌てて立ち上がり。
#アラン
「半分は冗談だよ」 ひらひらと両手を広げて振って。 「ま、やりたい事があるなら止めないが、程々にして寝ろよ」
エリカ
「半分本気なんですか……」 ジト目で睨みつつ。 「解ってます」 と言って退室しようと。
#アラン
「そりゃな」 悪びれる事もなく言って。 「じゃァな。おやすみ」
エリカ
「全く……」 溜息つきつつ。 「はい。おやすみなさい。また、明日」 と、出ていこう。
#アラン
「……」 エリカの姿を見送って。 「……まだまだガキだな、俺も」 先程合わせた拳を、嬉しそうに見つめてから、窓の外へと視線を向けた。

GM
所は変わって、ルナティアに割り当てられた部屋の前。
GM
今、そこへ至ろうとしているのはソルティアだ。
GM
君は先の言葉通り、ルナティアの元へとやってきた。
ソルティア
「…………」 とんとん、と軽い足音を立てて廊下を歩く。普段の甲冑姿の足音ではないが、彼女にとってはこちらの方が聞き慣れた音だろう。
ソルティア
部屋の前にやってくると扉に向き直り、ノックしようと手を上げる。
#ルナティア
「開いているわ」
#ルナティア
誰がやってきたのかなど、見抜けない彼女ではないのだろう。いつもと変わらぬ声色でそう告げる。
ソルティア
「……ん。入るね」 ノックしようとした手を止め、そのままノブにかけて扉を押し開ける。
#ルナティア
ルナティアは窓の傍に置かれたベッドに腰掛けて、静かに外の風景を眺めていた。
ソルティア
「外の様子はどう?」 そのまま部屋の中に入り、凭れ掛かるようにして扉を閉める。
#ルナティア
「月が見えない。街は変わらない」
ソルティア
「……この雲だからね」 月も太陽も、厚い雲に遮られて見えやしない。ゆっくりと部屋の中を横切って、ベッドに座るルナの隣に立って窓の外を見る。
#ルナティア
「考えはまとまった?」 ふと、視線を外からソルティアへと移して。
ソルティア
「うん。……ルナ、怒ってる?」 窓の外へ向けていた視線をルナへ戻して。
#ルナティア
「どうしてそう思うの?」
ソルティア
「もしも他に手段がなかったら、あの剣を抜こうと思ってたこと。……ルナには、許せる話じゃあないから」
#ルナティア
「そうね。その通りよ」
ソルティア
「うん。ここまで連れてきておいて、そんな話は無いよ、本当に」 とす、とルナの隣に腰掛けて。 「ごめんね、ルナ」
#ルナティア
「あんな剣を使ったら、私がみんなと一緒に居る意味が無い。たとえ抜くのが一人だったとしても、同じよ」
#ルナティア
「……その答えが、一人で出せたのなら謝らなくていいわ」
ソルティア
「じゃあ、少しだけ謝らないと。……全部一人で考えて出せた答えじゃないから」 使ってはいけないとは分かっていた。ただ、最後の心残りを自分だけで振り払う事は出来なかったから。
#ルナティア
「いいえ」 それでも、謝る必要はない、と。 「誰かと、話して来たんでしょう」
ソルティア
「シャルロットさんのところに行ってきたよ」
#ルナティア
「私が言った“一人”というのはね、私に頼らず、という意味でよ」
#ルナティア
「あの時こそ頼もしかったけれど、それまではソルはずっと、私を追いかけて生きて来たんでしょう」
ソルティア
「……ん」 こくりと頷いて。 「そうだよ。実際に行動出来るようになるまでは、ずいぶんかかっちゃったけど……」
#ルナティア
「でも、今回ばかりはそれじゃあ意味がない。私と関わりの薄い所で、あなたが、あなた自身の答えを出さなければならなかった。そう思ってるから」
ソルティア
「うん。それまでは、ルナと、アカシャ……家族の為に生きてきたんだ。それ以外の事は、優先度は低くて」 勿論、簡単に他の事を切り捨てられるほど情が無かったわけではないが。
#ルナティア
「……なんだか、勘違いしている気がするわ」
ソルティア
「……え?」 次の言葉を探している間に言われた言葉に訝しげな顔になって。
#ルナティア
「今だって、その家族の事を一番に考えろ、って言ってるのよ」
#ルナティア
「あの剣を抜くかどうかなんて、私の事を考えれば答えは一目瞭然なのに、その答えを出す為に私を訪ねるなんて言語道断だわ」
ソルティア
「……あぁ、そういう事」 意味を把握して頷いて。
#ルナティア
「もし、誰とも話さず、曖昧なまま私の所に来たら、頬を抓ってあげている所よ」
ソルティア
「それは嫌だなぁ……」 はは、と軽く笑って。 「……何とか赤点だけは免れた、ってとこかな」 また少し、意味を取り違えかけてたようだ。
#ルナティア
「そうね。危ない所だったけれど」
ソルティア
「“次”はもう少しいい点が取れるようにするよ」 その次があるのだ、と強い意志を込めて。
#ルナティア
「期待してるわ」
#ルナティア
「……こうして、二人で何でもない話をするのは、随分久し振りね」
ソルティア
「……ん、そうだね。あの後から、何だかんだで慌しかったから」 あの後と言うのは、公都の中継塔の戦いの後と言う意味で。
#ルナティア
「集落に居た頃は、そんな余裕なんてなかったし、あそこを発ってからも、何処か気負いがあった気がする」
#ルナティア
「……今も、気兼ねなく話せる訳ではないけれど、後ろめたさは無い。……そういう意味では、初めてかもね」
ソルティア
「……昔は、生きていくだけで精一杯だったから」 人を殺して生きていく稼業と言う業もあった。
#ルナティア
「だからといって、特別話す事があるかと言われると、そうではないんだけど……なんていうのかしら、少し、楽しいわね」
ソルティア
「うん、そうだね。こうやって何でもない事を話して、何でも無い事をして……“普通”ってのは、もしかしてこういう事なのかな?」
#ルナティア
「そう、なのかもね」
ソルティア
「……僕も本当に理解せず、君と普通に暮らすって事をただ追いかけてたけど……間違ってなかったよ」
#ルナティア
「……ん?」
ソルティア
「これから、勝ち目も分からない戦いに向かうっていうのに……幸せすぎて泣きそうだ」 手の甲で目じりをぬぐって
#ルナティア
「……大袈裟ね」 困ったように苦笑して。
ソルティア
「うん……でも、今やっと手に入れた気がするよ。本当に大事な“普通”って事」 寄りかかるようにして、少し背の低い彼女の頭に頬を載せる。
#ルナティア
「……そう、ね。こうしているだけで、心が安らぐような……きっと、これが普通の幸福」
ソルティア
「うん……」 そう呟いて、目を瞑り。 「今日だけは……一緒に居ても、いいよね。昔みたいに……」 遠いあの日、集落の寒い倉庫で互いを抱いて眠ったあの頃のように
#ルナティア
「……別に、今日だけじゃなくてもいいわ。……家族は、一緒に居るものなんでしょう」
ソルティア
「……うん……」 後は目を瞑ったまま、隣にある温もりをただ感じて。
GM
ようやく繋がれた家族の夜は、そうして、静かに更けていく。

シャルロット
見晴らしの良い、城壁の屋上を歩く一人と一つの影があった
シャルロット
一人はドレスにも似た鎧を纏い、一つは灰色の世界ですら存在を際立たせる黒い猫だった
シャルロット
「……」 猫は使い魔。自分の手足のように動かすことが、中々難しい
シャルロット
「ソルが卓越した魔術師だっていうこと、しみじみ思いますね……」 そんなぎこちなさに思わず笑って、猫を自分の肩に乗せた
エリカ
そんなところへ、階段登り終えてやってくるのだ。
シャルロット
「……エリカさん?」 猫の視界のおかげで、視野に不自由しない。あっさりと見て取って声をかける
エリカ
「こんなとこで何やってるの……?」 猫?と怪訝そうな表情しながら近づいてくぞ。
シャルロット
「ファミリアを作ったので、その具合を確かめに。まだなれませんね、感覚が増えるのは」 どうですか? と黒い猫を見せて
エリカ
「ああ……って、今度は使い魔まで……? 呆れるわね……」 多芸すぎて。
シャルロット
「お褒め頂き光栄です。……でも、もうちょっと魔法の技術は伸ばしたいので、私に伸びしろがあってほしいところですね」
エリカ
「それだけあっちこっち手を伸ばしといて……」 その上さらに個々を伸ばしたいと。
シャルロット
「あはは……マギテックはもう上手くならなくって。エリカさんみたいに、一つ飛びぬけた力ってわけでもないですし」 呆れないでくださいよ
エリカ
「飛び抜けてるって言えば、そっちだって剣技とかも大概なものでしょ」
シャルロット
「それは……そうですが。それも、ヤンファには敵わないかなって」 嬉しそうに笑って空を仰ぐ
エリカ
「そりゃあ、そこまでシャルロットが上回ってたら、なんかもう、理不尽すぎよ」
シャルロット
「……そうですね」 苦笑して  「エリカさんは、どうしてここに?」
エリカ
「え、ああ、まあその、たまたまシャルロットがいるの見えたから何やってるのかなって」 アランと話した後部屋に戻ったけど落ち着かなくてうろうろしてた、などという事情は勿論省く。
シャルロット
「ああ……やっていることは、さっきお話した通りですよ。……少し、眠れなかったっていうのも、ありますけれど」
エリカ
「……ふーん。そっか」  「……あれだけ大口叩いてたし、貴女ならすんなり寝入ってるかと思ったけど」
シャルロット
「本当は、こんなにゆっくりしてないであちこち駆け回りたい気分なんですよ?」
シャルロット
「本当、確かな明日が無いのだから、少しでも何かしなければいけないのに……私が今できることが身体を休めること、っていうのは皮肉のようです」
エリカ
「……そうするしかないんだから、仕方ないわよ。……ていうか、貴女がしょぼくれてないでよ」
シャルロット
「いや、あはは……」 照れたように頭をかいて 「皆が居る場で、弱音は吐けませんし」
エリカ
「そりゃ、まあそうかもしれないけど……」 と、少し間。 「……まあ、そうよね」
シャルロット
「でも、吐きたい弱音を吐いたりしないように。飛び出しそうな我侭を飲み込んだりすることは、私はあまり難しくないみたいなんです」
シャルロット
「そうすることが正しい、と思ったことを成す為になら、私は自分をいくらでも騙すし、殺せる。おかしいですよね」 んん、と伸びをして
エリカ
「……おかしいわよ。おかしく、ないけど」
シャルロット
「どっちですか?」 思わず笑ってしまった
エリカ
「そりゃあ、正しいことするのはいいけど。でも、それで、なんていうか。行き過ぎなくらいにまでやるのって、おかしいと、思う」
エリカ
「皇帝陛下とか……ベアトリスさんもそうだけど」
シャルロット
「うん……最近になって、私自身がそんな風にしてるんだなってことにようやく気付きました」
シャルロット
「それがどうしてなのか、理由を考えてひとつ、わかったんです」
エリカ
「……なによ」
シャルロット
「私、私の事が嫌いだったんだな、って」
エリカ
「……」
シャルロット
「そして、嫌いな私は……受け入れられないからって、外に弾き飛ばしてたんだって」
シャルロット
「今の私がおかしく見えるのは、都合の良い所だけの私だからなんじゃないのか。って、そういう風に思ったんです」
エリカ
「……何でそんなふうに思ったのよ」
シャルロット
「んー……エリカさんと自分の姿を重ねてみたんですが」 カメラで被写体を写すように、指で枠を作る
シャルロット
「何であの時、お姉様を置いていくなんてことを素直に受け入れて、あっさり後を任せてしまったんだろうと思って」
エリカ
「……?」 その時のことが関係あるのか。 「……ていうかなんで私と重ねるのよ」
シャルロット
「同じく姉妹がいらっしゃって、エリカさんは私から見ても“普通の女の子”、って感じでしたから。ルナはちょっと、クセが強いですし」 悪いわけじゃないんだけど
エリカ
「……あんまり何かと強調されると、これはこれで釈然としない気分になるのよね……ええと、それで?」
シャルロット
「ん、まあ……嫌な私のことも、受け入れてみようかな、と」
エリカ
「……よくわかんないけど、自己解決してるのね」
シャルロット
「ええ。ただ、決めたことをはっきりと行動に起こすまでのモラトリアムというか、もやもやした気分を整理しているところなのです」
エリカ
「ふうん……。ていうか、結局自分の何が嫌いだったのよ」 なんか、今の会話で解らなかったんだけど。
シャルロット
「道理に反するような我侭を言う事とか、相手の事を悪く言ったりとか、そういう……“良い子”じゃない私、ですかね? その辺り、深く聞かれると返答に困ってしまいますが」
シャルロット
「まあ、判り易く言うと、ファランダレスの私みたいな奴が、私の嫌いな私なんですよ」 ははは、と。心からの笑みで笑い飛ばす
エリカ
「ああ……」 なんか納得顔になった。
シャルロット
「アレも多分、私がどこかに抱えている心の影の部分……なんでしょうね」
エリカ
「……」
エリカ
と、何か考えこむような顔になって。
エリカ
「……普通になる、って。そういうこと」
シャルロット
「……はい。なんていうか、それもあって落ち着かなくて」 夜歩きしていたと
エリカ
「…………なんか、案外みんな大して変わらないのかな」 ぽつっと。
シャルロット
「そうなんですか?」 今度は意外そうな顔をして、エリカの顔を見てしまった
エリカ
「……」 は。
シャルロット
「……?」
エリカ
「……いや、まあ、いいか」 なんかこー、微妙に認め難いからアレだったけど。
シャルロット
「……いいんですか?」 なんだか聞いてばかりだ
エリカ
「私もさ。そういう、我儘とか、誰かのこと悪く言ったりみたいな、そういうのは良くないから、ずっと我慢しなきゃと思ってて」
エリカ
「妹だっているんだし、“良い姉”になんなきゃって。“悪い姉”の私なんて在っちゃいけないと思って色々ずっと押し込めてて」
エリカ
「……まあ、私は、シャルロットほど我慢すること得意じゃなかったみたいで、いつだったかみたいに、めちゃくちゃ言い散らかしたりしたりもしちゃったけど」
シャルロット
「……得意っていうか、私は無意識にやってましたよ。エリカさんみたいな我慢や、葛藤が普通なんでしょう」
シャルロット
「ところで、その、エリカさんはそんな自分を、やっつけられたのですか?」 これからの自分を考えると、聞きたくなるのはこんなことだ
エリカ
「……やっつけたように見えるの?」
シャルロット
「いえ……そう凄まれると困るんですが。少なくとも、昔みたいな、ぐらぐらした感じ? 危うげはなくなりましたよ」
エリカ
「ぐらぐら……まあ、そう、なのかな」 自分では、今でもそんなに安定した感じはしない気もするけど。
シャルロット
「そうです。それに、何か解決したからって、揺らぎが全部なくなるなんてことのほうがありえないんですよ」
エリカ
「変わったのは、まあ、色々あったからだけど……まあ、ええと」
エリカ
「悪い自分やっつけたかどうか、だっけ……ようするに、そういう自分認められなくて、悩んだりしてて」
エリカ
「そうしてる時に、ある人に、そういう、悪い私を認めてくれるようなこと、言われたのよ」
シャルロット
「……認めてくれる?」 というか、ある人って? という顔で
エリカ
「誰かを悪く思ったり、我儘だったり利己的で打算的なこと考えたりとか、そういうの、別におかしくなんかない、普通だって」
エリカ
「だからそんなに思い詰めるなって……、まあ、その時は全く納得しきれたわけじゃなかったけど」
シャルロット
「そっか……いい人と巡り会えたんですね」 
エリカ
「……そうね」
エリカ
「……で、まあ、多分今は、そのとき言われたみたいに……悪い自分、嫌いな自分を受け入れられたんじゃないかな……と、思う」
シャルロット
「……なんだか、勇気がわいてきました」 そんな風に話すエリカを見て、両手を握る
エリカ
「だから、多分シャルロットが嫌な自分受け入れようっていうのは、それでいいんだと思う。やっつける必要なんて、ないのよ」
シャルロット
「そう……ですね。ありがとうございます、エリカさん!」 思わず手を握って礼を言う。まだ操作に慣れない猫まで手を重ねにきた
シャルロット
「明日、見ていてください。きっと、それを叶えて見せます」
エリカ
「……ていうか、やっつけたような状態だったのがこれまでのシャルロットだったんじゃ……って」 いきなり手握られた。にゃんこまで!
シャルロット
「そうなのでしょう。ええ、微妙な思い違いをしていました」 こくこく
エリカ
「お礼、言われるような程のことは別に言ってない気がするけど……」 あんた殆ど自己解決しかかってたじゃん。
シャルロット
「いえ、先ほどソルも私のところに来て、お話をしてくれて……なんだか、みんなに背中を押してもらっているみたいです」
シャルロット
「私にとっては、何より力になる言葉でした。……すっきりしたら少し眠気がきてしまいましたね」 あふ、と上がるテンションとは裏腹に眠そうなあくびを洩らす
エリカ
(……前は、そういうとこが妬ましかったのかな) 悪い自分をやっつけた、どこを見ても悪意なんて見えない人間、なんて。
エリカ
「……ま、まあ、隊長がしょぼくれてたりしたら隊員だって困るしね」 なんか気恥ずかしいわ。
シャルロット
「隊長らしく胸を張っていきましょう。……エリカさん? 私は自室に戻ろうと思いますけど……ご一緒します?」 部屋まで送るよ? と目でうかがう
エリカ
「あ、いや、いい。私はもうちょっと風に当たってく、から」
シャルロット
「……あまり遅くならないように、ですよ」
エリカ
「解ってる解ってる」 なんか、これ以上一緒にいたら余計な小恥ずかしいことまでぽろっと言いそうで恐いのだ。
シャルロット
「じゃあ、この辺りで。エリカさん、ありがとうございました」 ぺこ、と頭を下げて、自室へと足を向ける
エリカ
「そんな何度もお礼言わなくていいって……」
エリカ
「……まあ、おやすみ」
シャルロット
「それだけ嬉しかったって事です。おやすみなさい」 エリカへ言葉を残しながら、そっと離れて言った

エリカ
「……」 シャルロットが遠ざかるのを見送って。
エリカ
「……あー」 と、空を見上げて。 「……これ、負けたのかな」
エリカ
まあ、いいけど。とぼやいて。いい加減、自分も部屋に戻るとしよう。

GM
夜も更けて来た頃、ヤンファは部屋で一人、静かに自分の考えをまとめていた。
GM
窓から見える景色は、未だ晴れておらず、月も星もその輝きを曇らされている。
GM
ふと考え事に沈んでいると、ヤンファの耳にこつこつと小さな足音が聞こえてくる。
ヤンファ
「………」 外を眺めていたが、ちらりと扉の方に視線をやり
GM
間もなく、こん、こんと扉がゆっくりノックされる。
ヤンファ
「開いてるぜ」 入って来い、と即座に答える
#フェリシア
「……失礼するわ」 ドアノブに手を掛けて、やはりゆっくりと扉を開ける。
ヤンファ
「よォ、珍しいじゃァねえか。そっちから来るなんてよ」 カッカッカと笑い  「ま、座れよ」
#フェリシア
「別にそう珍しくはないと思うけど……。ええ、座らせてもらうわ」
#フェリシア
部屋に置かれた椅子に腰掛けよう。
ヤンファ
「大体事務的なこと以外じゃァ来ないと思うが……今回は何か言いたいことがあって来たんだろ?」
#フェリシア
「そんな事……あったかもね」 思い出してみると、意図的にそれ以外で声を掛けるのは避けていた気がする。 「そう、ね」
#フェリシア
「考えはまとまった? 答えは決まっているみたいだけど……」
ヤンファ
「………」 その表情に、少しだけ笑い  「あァ」 頷いて
ヤンファ
「シャルに同意するとか、そんなんじゃァねえ」
#フェリシア
「貴方自身の意志で、ということね」
ヤンファ
「そうだ……絶対に自分の意志で、あの刃を抜くことは無ェ」
#フェリシア
「……そう」 改めて直接その言葉が聞けたのが嬉しかったのか、ふっと口元に笑みを浮かべて。
#フェリシア
「シャルロット様とは、もう話したの?」
ヤンファ
「いや、まだだ」 首を横に振り 「シャルは……」
ヤンファ
「シャルは今、全員にとって支えとなる存在でもある筈だ」
ヤンファ
「今頃、色んな奴と言葉交わしてるだろォよ」
#フェリシア
「ええ、多分ね」
#フェリシア
「……シャルロット様が、明日何をなさるつもりなのか、分かる?」
ヤンファ
「………そうだなァ」 顎に手をやり  「一つだけ……予想みてえなモンは」
#フェリシア
「……何だと思う?」
ヤンファ
「当たってるとは思ってねえぞ」 あくまで予想だ、といいつつ続ける 「まず、あのアランが持ってきた魔剣」
ヤンファ
「アレは刃を抜いた者の潜在能力を上げるっつってたよなァ?」
#フェリシア
「……というよりも、あの剣から齎される、という感じでしょうね」
#フェリシア
「結果は同じだけれど、その根源は、【アビス】や【フェイス】と違ってその人自身ではなく、あの魔剣の力のはずよ」
ヤンファ
「ン、まァそんなモンか」 頷いて 「で、全く以って格は違うんだが」
ヤンファ
「シャルも似たように、“シャル自身の力”で俺らに力を与える術を持ってる」
ヤンファ
「〈ファランダレス〉とアイツ自身の力……それを使えば同じようにもっと力を」
ヤンファ
「対抗する力を発揮させれるんじゃァないか……とかまた何か無茶苦茶なことでも」
ヤンファ
「考えてそうだなァ……ってトコか」
#フェリシア
「ふう……」 額に片手を当てて首を横に振った。 「妹だとかなんだとか、散々言ってるクセに鈍いのね」
ヤンファ
「あン……?」 顔を顰め  「どういうこった」
#フェリシア
「私が言いたいのは、そういうことじゃなくてね」
ヤンファ
「………?」 質問の意図を汲めていなかったことに気付かなかった
#フェリシア
「……あまりうまく言葉には出来ないんだけど、シャルロット様は、大きく変わろうとしていると思う」
#フェリシア
「シャルロット様は、今まで“良い人”過ぎたのよ。あらゆる方面で天賦の才能を持っていて、人が善くて、おおよそあの年頃の少女としては似つかわしくないような、そんな人だった」
ヤンファ
「まァ……そうだな」
#フェリシア
「そしてそのままでは、今のアレクサンドリアと似たようなものだと感じてしまったのか。それとも、シャルロット様に覚悟が出来たのか……。それは分からないけれど、彼女は、別の本当の自分を受け入れようとしているんだと思うわ」
ヤンファ
「………別の?」
#フェリシア
「……そう。今のシャルロット様はね。基本的には誰からも好かれるような、そんな底なしの善人なのよ」
#フェリシア
「でも、それはきっと本当の彼女じゃない。ずっと昔、まだ幼い頃の経験から自衛の為に身に着けてしまった仮面」
#フェリシア
「そして、明日、その仮面を自分の手で外そうとしている」
ヤンファ
「………」 静かにそれを聴いている
#フェリシア
「……それって、とてつもなく勇気の要る事なのよ」
#フェリシア
「積み重ねてきた実績のせいで、周りの皆は彼女はそういう人だ、と信じ込んでいる。彼女自身がどれだけ覚悟をしていたって、周りの人間がどう受け止めて、どう思うかは分からない」
#フェリシア
「私たちは、いいわ。シャルロット様はシャルロット様だもの。そんな変化が起きたくらいで、彼女に対する気持ちは変わらない」
#フェリシア
「でも、特別親しい人間以外はそうじゃないの。世界を取り戻した後だって、彼女はしばらく歴史の表舞台に立ち続けなければならない」
#フェリシア
「その重圧に、16,7の女の子が一人で耐えられるはずがないわ」
#フェリシア
「……此処までいえば、流石に分かるわよね」
ヤンファ
「……そうだったな」  「シャルは、俺らに……俺にとってシャルだから、何とも思ってなかった」
#フェリシア
「……それに」
#フェリシア
「きっと、ジェラルド様が今あちらに居る事や……マグダレーナ様が隣に居ない事に対する不安も、“理解”してしまうかもしれない」
#フェリシア
「だから今の彼女には、支えが必要なの」
ヤンファ
「………普通に」 ぽつりと口を開き
ヤンファ
「普通になりたいって……シャルは言ってた」
#フェリシア
「……“普通”の人ってね、そんなに、強くないのよ」
ヤンファ
「だが………出来なかった。そうなった時に今自分が置かれた状況に」
ヤンファ
「……耐え切れる筈なんて、ねえもんな」
#フェリシア
「……支えるのは、きっと、私みたいな相手じゃ役者不足なの」
#フェリシア
「ヤンファ、貴方じゃないと、ダメなのよ」 真っ直ぐに、ヤンファの目を見つめて。
ヤンファ
「………」 その瞳の光を、受け止め
ヤンファ
「……気付いてなかったのか。気付かないようにしてたのか、自分でも解らなかったんだ」
ヤンファ
「俺だって、一人の人間だ……不安だって感じる」 独白するように
ヤンファ
「シャルを支えれるのか、なんて不安……もちろんあった」
ヤンファ
だが」 顔を上げて
ヤンファ
「そうだったなァ。俺にしか出来ないんだった」
#フェリシア
「ええ、そうよ」 確りと頷いて。
ヤンファ
「忘れてたらしい。いつも傍に居て、それが当たり前だと思ってた」
ヤンファ
「傍に居るのは誰でもいいなんてワケじゃァねえ。俺にとっても、シャルにとっても」
ヤンファ
「……ありがとよ、フェリシア。お前が言わなきゃ気付かなかったかもしれねえな」
#フェリシア
「……本当、だらしがないんだから」
#フェリシア
「ほら、分かったのなら行きなさい」
ヤンファ
「あァ」 立ち上がり、部屋を出ようとする前に 「フェリシア」 立ち止まってその名を呼ぶ
#フェリシア
「何?」 手元に視線を落とそうとしていたところで名前を呼ばれ、振り返る。
ヤンファ
「また、前みたいに買い物でも行こうぜ」 それが自分に出来る彼女への返礼だ、とでも言うように
#フェリシア
「ヤンファがきちんと仕事をしたら、ね」 最後まで変わらず、そんな言葉を返す。
ヤンファ
「くくっ、手厳しいモンだ」 笑いながら彼女に背を向け、自分の部屋を後にしていった
#フェリシア
……」 その姿を見送ってから、リスのストラップのついた通信機を取り出して。
#フェリシア
「……それでいいのよ」
#フェリシア
「……私は、私なんて顧みることなく、自由に生きて、それで、時々振り返ってくれる……そんな貴方が、好きなんだから」 瞳を閉じ、涙を浮かべ、口をきゅっと強く結びながら、通信機を握りしめた。

# 
そこは部屋が違えど、何度も訪れた場所。
# 
嘗ての始まりの刻から、今この刻まで、何度も。
# 
足音は隠さず、彼はその部屋の扉の前で立ち止まる。
# 
気付かれていることなど何一つ気にせず、躊躇なく扉を軽く二度叩いた。
シャルロット
開いてますよ」 ドア越しに返す、予め判っていたような返答
ヤンファ
入るぜ」 ゆっくりと扉を開いて入る
シャルロット
「思ったより早かったですね」 腰掛けた椅子に座りなおして、ヤンファへと向き合う
ヤンファ
「まァ、時間は沢山取れた方が良いだろうと思ってなァ」 パタリと静かに扉を閉め
シャルロット
「それは、そうですけど。……どれだけ時間をかけてお話するんですか?」 苦笑しながら、空いた椅子を勧めよう
ヤンファ
「別にいいんだぜ?出会った頃の箱入り娘だった話から始めても」 冗談交じりに笑いつつ、椅子に掛ける
シャルロット
「そのお話はあまり交わしたくないですよ。……それで、何を話しに来られたのでしょう」
ヤンファ
「ンン……そうだなァ」 言葉にしづらいが
ヤンファ
「まずは、明日どうするつもりでいるのか」
ヤンファ
「それを聞かせてもらいたくてな」
シャルロット
「明日、ですか? ……繰言になりそうですけど、私はあの魔剣を抜いたりはしませんよ」
ヤンファ
「まァ、ンなもんは解ってる」
シャルロット
「ええ。聞きたいのはそういう話じゃ、ないんですよね」
ヤンファ
「あァ。打開策、っていう言い方も変だとは思うが」
シャルロット
「……でも、残念ながら私も、これをすれば明日に勝てる、っていう策はないんですよ」 ぎい、と立ち上がって、テーブルにおいてあった紅茶をカップに注ごう
ヤンファ
「そりゃァ、魔剣以上の力を一夕一朝だなんてな」
シャルロット
「だから、そうですね。明日やるのは意思表明です」 魔動機術で保温された紅茶が湯気を立ててカップを満たす
ヤンファ
「そうだな、“シャル”がどうしたいか。今の俺にはそっちの方が大事だから」 それを聞きたかったんだ、と
シャルロット
「……私が、何をしたいかですか」 そっとヤンファの前に紅茶を置く。
ヤンファ
「あァ。お前が、っていうのは公国第四軍特殊部隊〈アストラム〉のシャルロットでも」
ヤンファ
「イエイツの血を引くシャルロットでもねえ」
ヤンファ
「お前自身が、どうしたいか。どう在りたいか、だ」 紅茶を受け取り、ありがとうと頷きながら
シャルロット
「……そうですね」 自分の紅茶も用意して椅子に腰を下ろすと、訥々と言葉を続ける
シャルロット
「先ず、アストラムの隊長であり、イエイツのシャルロットとして私は、“私”を始めることにしようと思います」 あえて、否定された側の自分として返答をし
ヤンファ
「………」 静かに、紅茶を音無く啜り
シャルロット
「それでそれで。私は、“中身のある”自分の思いを、形にしたい、です」 やや俯いて、尻すぼみになっていく言葉を、なんとか言い切った
ヤンファ
「形に……?」
シャルロット
「“今”のままの私では、こうだといい、こうしたいっていう気持ちは、俯瞰した自分でしかなくて、ありのままの私の気持ちじゃあないんですよ」
ヤンファ
「未来を担うことから逃れられない故に、自分を何処か偽った答えが出てきてしまう……ってところか」
シャルロット
「はい。……それに、こうなれるといい、っていう気持ちは、どこか他人の絵空事みたいで、まるで重さがないんです」
シャルロット
すこし、溜めをつくってヤンファへと語りかける
シャルロット
「ヤンファ、私からも聞かせてください。貴方は、今、生きていますか?」 ヤンファの目を射抜くような視線を向ける。表情はまるで透明で、何の感情も掴めない
ヤンファ
」 その視線に当てられ。 「………」 逃げるためではない、自分を問い詰める為に一度目を伏せる
ヤンファ
「……俺は」 ゆっくりと目を開き  「自分の意志で、生きている」 シャルを真っ直ぐ見つめ
シャルロット
「……答え、出せたみたいですね。くすぶっていたころのヤンファなら、きっとそんなことは知らないと答えていました」
ヤンファ
「俺だけの力で出せたワケじゃァないぜ。色んなモン見て、色んな奴と話して」
ヤンファ
「お前に怒鳴ったりしたりして、死んだ筈の親父と刃交わして……」
ヤンファ
「沢山、答えは転がっていた。その中で、俺の意志で拾いたいと思った答えだ」
シャルロット
「そうですか」 かちゃん、とカップをソーサーに置き
シャルロット
「もう、名乗ってもいいのではありませんか?」 何を、とは言わないまま、ヤンファへと問いかける
ヤンファ
四の刃『己が一の生を持つ刃で在る事忘れる勿れ』。親父はその意味を全然理解してねえなって言ってた」
ヤンファ
「俺は一振りの剣であり、一つの命を持った人間だ」
ヤンファ
「刃である“刃狼”……その課せられた命から、代々そう名乗り続ける者が殆どだっただろうが」
ヤンファ
「俺は別の、もう一つの答えを“人狼”を選んだ」 それが俺の答えだ、と
シャルロット
「……ヤンファ」 感じ入った表情で、小さく頷いた
ヤンファ
「何も畏れず、何にも動じない優秀な護衛なんかじゃァ、アレクサンドリアの作った人形と同じだ」
ヤンファ
「俺は恐れるし、ぶつかり合えば怒ることもあるし、諦めもしなければ……誰かを愛する」
ヤンファ
「刃のように鉄の志を持つよりも、揺れ動く人でありたいんだ」
シャルロット
「そうですか……」 その言葉を、ゆっくりと飲み込んで
シャルロット
ねえ、ヤンファ。私、やりたいことが沢山あるんです」 吐露するのは、今まで溜め込んできた“なんとなく”浮かんできていた自分の気持ち
ヤンファ
「あァ、言ってみ。例えばどんなんだ」 紅茶のカップをかちゃりと受け皿に置き、手を組んでシャルを見る
シャルロット
「こんな、堅苦しい口調なんかやめて、砕けていて気さくな話し方をしたいです。隊長なんて偉そうな立場、誰かに任せて私は傍で支える側になりたいです」 それに、それにと言葉は続く
シャルロット
「……冒険者の宿で見かけたみたいに、笑いながら罵詈雑言を交わしてみたいし私は、今まで落としてきてしまったものを、拾いたい」
シャルロット
「ヤンファ。わたし、全部終わったら冒険者になりたい」
ヤンファ
あァ」 そう言うだろうと思い、頷いて
ヤンファ
「……が、寂しいことを言ってくれるなァ」 ちっちっちと指を振り
ヤンファ
「一緒に冒険者になろうだろォ?」
シャルロット
「いいえ」 嬉しそうに笑いながらも、首を小さく横に振る
シャルロット
「私、冒険者になりたい。だからヤンファ。私の手を取って、どこまでも先へ連れて行ってくれませんか」 並び立つのもいい。でも、自分は貴方の傍にいて、力強く手を引かれて行きたい。
ヤンファ
……」 またしても先手を取られたような気分だ……が  「勿論だ」 強く頷き
ヤンファ
「どんな国だろうと、どんな辺境だろうと」
ヤンファ
「世界には沢山、お前が欲しいものが落ちてる筈だ」
ヤンファ
「俺について来て、色んなものを見せてやる」 そういって手を差し伸べる
ヤンファ
俺が連れて行って、だ
シャルロット
はい」 柔らかく、その手を重ねて
ヤンファ
「何処へ行っても一緒だからな、シャルロット」 その手を引き、優しく抱きしめた

GM
こうして、それぞれの想いが交差する夜は更けていく。
GM
空には星が輝かずとも、世界は眩いばかりの星々で輝き、色鮮やかに照らしだされている。
GM
色のない虚ろな世界であっても、“人”という星は、確かに息づいていた。