虚ろの輪音

第二部 序話後 幕間Ⅲ

幕間「五年前」

 少女は、沢山の人集りを見ていた。
 人集りの向こうの壇上には、金髪の美青年。
 青年は何かを演説していた。
 内容は、少女には少し難しいが、どうやら、この前の戦争で死んだ人々のことを称えているらしい。
 演説は、群衆の心を打っている。感動して涙を流す者もいる。
 けれど、少女にはその光景が理解できなかった。
 その、戦争で死んだ人が、何か凄いことをしたからといってって、だからなんなのだろう、と。
 死んでしまったのに。
 どんな凄いことをしたって、“えいゆうてき”なことだって、死んでしまったら、もう、二度と帰ってくることはないのに。
 ただ、ただ家族みんなが、悲しむだけなのに、と。
 ……少なくとも、少女の家ではそうだった。
 優しい父は、戦争に行って、二度と戻ることはなかった。遺体も、遺品も。何も、帰らなかった。
 母親は泣いていた。妹も泣いていた。そして、少女も泣いた。
 父の死を伝えに来た人は、今、壇上に立ってる青年が、誰かを称えるのと同じようなことを言っていた気がする。
 けれど、そんなものは何の慰めにもならなかった。
 帰ってきてさえくれればよかったのだ。ただそれだけ良かったのに。
「うそつき」
 少女にとっては、壇上の青年は、詐欺師か何かのように見えていた。
 戦争なんて悪いことしか無いのに、あいつは良いことだったみたいに言っているただの、嘘つきなのだと。
 演説の間、少女はずっと青年を睨んでいた。
 怒りを込めた瞳でそれこそ、親の仇のように。

幕間 了