虚ろの輪音

第二部 序話後 幕間Ⅰ

幕間

 
ルキスラ・ダーレスブルグの二国会談の後、シャルロット、ヤンファ、エリカ、ソルティアの4人はマグダレーナから直属部隊《アストラム》の設立の話を聞く。
 
入隊についての確答はしていないものの、君の意思は概ね固まり掛けている。あとは、義妹にも話を通す……といった所だ。
 
帰宅後、夕食を用意してくれていたアカシャと共に夕食を済ませ、その片付けを終える。
 
今は、ダイニングテーブルを挟んでアカシャと対面している。
アカシャ
「……ええと、それで、どうかしたんですか?」 予め話がある事は伝えてあったろう。アカシャは小首を傾げて尋ねる。
ソルティア
「うん。そうだね……どこから話そうか、迷うけど」 少し顎に手を当てて考え込み。
アカシャ
「はい、ゆっくり考えてください」
ソルティア
「今日、公国と帝国の人達で会談があったのは知ってるよね。それが終わった後、マグダレーナ様に呼ばれたんだけど……」
アカシャ
「ええ、少し前から街が賑やかでしたし……あの日、義兄さんたちがお城に向かった後にも、先生たちからそういうお話を聞いていましたし」
ソルティア
「マグダレーナ様は、今回の一連の事件を受けて、自分直属の部隊を作る、と言う話をされたんだ」
アカシャ
「……直属の部隊、ですか?」 いまいちピンとこないのか、疑問符を浮かべて。
ソルティア
「うん。マグダレーナ様は、僕にその部隊に参加して欲しい、と仰られた」
アカシャ
「それって……また軍に戻る、ということですか?」
ソルティア
「そういう事になるね……」 淹れてもらったお茶なんぞしばきながら。
アカシャ
「……そう、ですか」 何とも言えない表情でお茶を啜って。 「あの、義兄さんは、以前はどうして軍を辞めたんですか?」
ソルティア
「そうだね。今日はそこのところを話しておこうと思ったんだ。アカシャも、無関係な話では無いだろうしね」
アカシャ
「はい、分かりました。じゃあ……意見はそのお話を聞いた後に」
アカシャ
そういうと居住まいを正す。
ソルティア
「僕が軍を辞めたのは、冒険者になって探したい人がいたからなんだ。それは、アカシャもきっと知ってる人だよ」
アカシャ
「……私も知っている人?」
ソルティア
「うん。僕と一緒に、君を助けた……と言っていいのかな。その時に、出会った人だよ」
ソルティア
「その頃のアカシャは、まだ小さかったけど……覚えているかな?」
アカシャ
……」 僅かに、顔を顰める。それ以前の記憶も苦いものであれば、その時の記憶も、決して進んで思い出したくないものだ。
ソルティア
「……ごめん。思い出したくない事だって言うのは、分かってたんだ……」 少し悲しそうに眉を顰めて。
ソルティア
「ただ……アカシャには覚えておいてほしいんだ。彼女の事を……」
アカシャ
「……うん、大丈夫です。今は、昔とは、違います」 訥々と応えて。
アカシャ
「……その時のこと、正直に言うと……あまりはっきりとは、覚えていません。義兄さんと、もう一人……女の人が居たのは、なんとなく覚えているんですけど」
ソルティア
「……うん。僕が探しているのは、その女の人……ルナティア、と言う人だよ」
アカシャ
「……ルナティア、さん?」
ソルティア
「その人は、僕の……何て言ったらいいのかな。幼馴染と言うか、家族のようなものと言うか……」
アカシャ
「ん……大切な、人だったんですよね」
ソルティア
「うん。生まれた時から一緒だった……大切な人だ」
アカシャ
「……その人を探しているのは、分かりました。でも、そもそも、どうして……あの時に別れてしまったんですか?」 言外に、自分が原因なのではないかという不安を漂わせながら。
ソルティア
「……君が思ってる通りだよ。アカシャを引き取る時、僕は彼女を引き止める事が出来なかった」 顔の前で手を組んで、少し顔を伏せる。
アカシャ
「……義兄さんが、私を引き取ろうなんて思わなければ、その人が何処かへ行ってしまう事はなかったと……そういう事ですか?」
ソルティア
「……それは、分からないよ。あの頃から……少しずつ、僕と彼女はすれ違っていっていたから」 暗殺を行うだけの彼女と、潜入して他者と接する機会の多かった自分では、意見が違ってくる事も多かっただろう。
アカシャ
「……そう、ですか」 それが単に優しさによるものなのか、それ以外の要素も含んでいるのか、そこまではまだアカシャには感じ取る事が出来ずに俯いてしまう。
ソルティア
「離れ離れになる引き金になった、と言うのならそうかもしれない。でも……いつかこうなるかもしれない、とは、少しずつ思っていたんだ」
ソルティア
「……僕も、当時は16の子供だった。彼女を引き止めるだけの言葉は持ち合わせていなかった……それは、今も同じかもしれないけど」 視線を一度窓の外へ向けて。
アカシャ
「……そう思っていたのに、まだ探そうと、思うんですね」
ソルティア
「……そうだね。ここに来た当初は、そう思う余裕も無かったけれど」
アカシャ
「義兄さんが探したいと思うのなら……それは義兄さんの意志次第ですから、私はそれを止める権利は持ちません」
アカシャ
「……ただ、同時に義兄さんに危険な事をして欲しくない、という気持ちは確かにあります」
ソルティア
「うん……そうだね。僕も、アカシャが同じような事をしようとしたら、同じように考えると思うよ」
アカシャ
「その内、私もちゃんとお仕事が出来るようになります。……義兄さんが冒険者や軍属になんてならなくても、普通に暮らしていく事は、きっと問題なく出来るでしょう」
アカシャ
「私は、それで義兄さんが危険から身を遠ざけられるのなら……安心できるし、嬉しいです」
ソルティア
「……そうか……アカシャも、もう大人だもんね……」 嬉しいような困ったような笑顔を浮かべて。
アカシャ
「……大人かどうかは、分かりません。でも、義兄さんに助けられてから、色々な事を頑張って、多くの事を学べるように頑張ってきた……とは思います」
アカシャ
「だから、私は義兄さんには、これ以上危険な事に首を突っ込んで欲しくはありません。……でも」
アカシャ
「義兄さんがその人を探したいと思う気持ちも……分からなくもない、と思います」
ソルティア
「え……?」 手を組んで言葉を探していたが、思いもよらぬ言葉に目を開く。
アカシャ
「……だって、もし義兄さんと大喧嘩して、義兄さんが出て行ってしまったら、私だって探して連れ戻そうと考えるでしょうから」
ソルティア
「………」 少しぽかんとした顔でアカシャを見ていたが、すぐにくすぐったそうな微笑に変わる。 「……そうだね。ありがとう、アカシャ」
アカシャ
「だから……もうそういう事は辞めてくださいと言いたいのか、気の済むまで探してあげてくださいと言いたいのか、自分でもよく分からないんです」 困ったように微笑みを返して。
ソルティア
「うん。僕も同じだよ。……軍に戻る話を受けたら、僕はカシュカーンへ行く事になる。今までみたいに会える機会は、どうしても少なくなってしまう」
ソルティア
「……ルナティアを探しに行きたいという思いもあるし、アカシャの所を離れたくないって気持ちもあるんだよ」 くす、と少し楽しそうに笑う。
アカシャ
「……ひ、引越しとか?」
ソルティア
「アカシャが見習いから正式にシスターになったら、カシュカーンの神殿に勤めれるか真剣に考えようと思う」 少し冗談っぽく、でも真顔で
アカシャ
「正式なシスターに……ですか。でも、神様の声が聞こえないとあ……」
ソルティア
「ん……? どうしたの、アカシャ?」
アカシャ
「……高位の神聖魔法に、その神様の啓示を与える洗礼の奇跡があるって話を思い出しまして」
ソルティア
「……ベアトリスさんなら使えるかも……」 ぼそっ
アカシャ
「それを受ければ、神官として必要な奇跡を行使することも出来ますし……正式なシスターとして、認めて貰えるかも知れません」
ソルティア
「そ、そうだね。ちょっとその辺を考えてみるのもいいかも……どうせ赴任したとしても一ヶ月は先の話だろうし……」
アカシャ
「問題はその洗礼を行える方が居るか……ですけど」 客観的な資格としては、もうその程度には認められているから洗礼の話を誰かから持ちかけられたんだ。
ソルティア
「会う機会があったら、ベアトリスさんに聞いてみるよ……ベアトリスさんが無理だったとしても、伝手があるかもしれないし」
アカシャ
「……うん、お願いします。でも、私がもしそちらに赴任する事になったら……モニカともなかなか会えなくなってしまうんですよね」
ソルティア
「そうだね……実は、エリカちゃんにも同じような話が来てるから。というかいつもパーティー組んでた四人をそのまま部隊として組み込む形なんだけど」
アカシャ
「4人……義兄さんとエリカさんと、シャルロットさ……まと、ジャ……じゃなくてヤンファさんでしたっけ」
ソルティア
「そうだね、その四人と、補佐の人が入るだけの直属部隊だよ」
ソルティア
「やる事は、正直今までの事とほとんど変わらない……ただ、その部隊は、今まで起こった一連の事件を更に追う、と言う話だから」
アカシャ
「エリカさんは、モニカも近くに住ませるようにするつもりなんですか?」
ソルティア
「……今までの事件には、ルナティアが関わっていた。だから、その部隊に入ることは、彼女を追う事にもなるんだ」
ソルティア
「それは聞いてない……けど、無理だろうね。橋を越えた先は最前線だから、モニカちゃんには辛い環境だろうし……」
アカシャ
「……そうですか。お仕事の詳しい話については、私はよく分かりませんから、義兄さんに任せます」
アカシャ
「……でも、モニカとなかなか会えなくなってしまうのは、ちょっと寂しいかな」
ソルティア
「そうだね……」 少し物思うように、窓から夜の街を見る。
ソルティア
「……アカシャ。やっぱり僕は、彼女を……ルナティアを追いかけようと思う。彼女を……僕らが今こうしているような、普通の生活へ戻してやりたいんだ」 視線をアカシャへ戻し。
アカシャ
「……ん、そうですか。それなら、私達二人の総意は、義兄さんがルナティアさんを追い掛けること、ですね」
ソルティア
「僕にとっては、ルナティアもアカシャも、同じように大切な存在なんだ……家族のようにね」
ソルティア
「……ありがとう、アカシャ。確かに、彼女を追いかけるかどうかは僕の意志次第だ。でも……出来ればアカシャにも、その事を納得してほしかったから」 明るい笑顔を見せて。
アカシャ
「……はい、ありがとうございます」 大切な存在、には頷いて礼を述べて。 「ええ、私も義兄さんが勝手にそんな事をしていたら、やきもちを焼いてしまいます」
ソルティア
「彼女を捕まえたら……きっと軍も辞めると思う。危険な事をせずに、静かに暮らせる日が来ると……」
アカシャ
「そうと決めたら、私は義兄さんを全力で応援しますから。モニカとは、通信機で連絡が取れるんでしょうし……、でも、会えないのは寂しいですから、義兄さんとエリカさんの間でもちょっと話し合っておいて欲しいかな、とは」
ソルティア
「ふふ……こうやって他人行儀にありがとうございます、なんて言っちゃうけど、本当は必要無いんだよね。大事だって思う事は、当然なんだもの」 くす、と小さく笑って。<ありがとう
アカシャ
「……そうですか。じゃあ、そうやって暮らせる日を心待ちにしていますね」
ソルティア
「うん、分かった。この後の結果次第だけど……エリカちゃんともまた話しておくよ」
アカシャ
「どのような間柄でも御礼の言葉は大事ですよ。言葉にするのが、一番はっきりと気持ちを伝えられる方法ですから」
ソルティア
「おっと……これは一本取られたかな」 笑って後頭部を掻き。<お礼の言葉は大事
ソルティア
「……ベアトリスさんは、僕らがこの町に住む事が決まった時、こう言ってくれたよ」
ソルティア
「『血は水よりも濃い。しかし、縁は血よりも深い』って……僕は、その言葉を信じて、ここまでやってきた」
ソルティア
「その言葉は嘘じゃなかった……信じてよかった。今は本当に、そう思うよ」
アカシャ
「……仲良くなるには、実際に血が通っている事なんか関係ないということでいいんですよね?」
ソルティア
「そうだよ。……こうやって家族になる事も、ね」
アカシャ
「……うん、その言葉は真実だと思います」
ソルティア
「……平穏無事に暮らせるようになるまでは、もう少しかかりそうだけど。頑張っていこうね、アカシャ」 そう言って、アカシャの方へ拳を突き出す。
アカシャ
「……ん、私は義兄さんが無事なら、いくらでも待ちますから」 突き出された拳にどうしたらいいのか一瞬迷ってから、同じように拳を差し出して 「こう……ですか?」
ソルティア
「ん」 こつん、と拳同士をつき合わせて。 「軍にいたころは、同僚とよくこうやって励ましあったもんだよ」
アカシャ
「何だかちょっと逞しさを感じるやり方ですね」 なんて苦笑して。
ソルティア
「ま、軍ってそういうところだからねぇ……よし、今日はもう寝ようか。明日はマグダレーナ様のところへ行かないといけないしね」 よいしょ、と立ち上がり、。
アカシャ
「あ、はい。早いのなら、私は明日の朝ご飯の準備を少ししてから休もうかな……」
ソルティア
「ん、だったら二人でささっと終わらせてから寝ようか」
アカシャ
「分かりました。それじゃあ」 とキッチンへ向かっていく。

 
一方、場所は変わってエリカの家。旧市街にある、豪華とはいえないが一世帯が暮らすには十分な家がケイ家だ。
 
とはいえ、今住んでいるのはエリカとモニカの二人のみ。二人だけでは、十分どころか広すぎるくらいのスペースがある。
 
中には、父や母の死後から殆ど手を付けられていない部屋もあるだろう。
 
二国会談を終えてエリカが帰宅すると、既にモニカによって食事が用意されており、彼女と二人で今し方それを食べ終えたところだ。
 
以前に比べれば、モニカの料理の腕も少し上がっている。体調が悪いなりに、努力を続けているのだろう。
モニカ
「……ふう、ご馳走様」 水を口にしてから、手を合わせて。
エリカ
「ごちそうさま」 同じように手合わせて。
モニカ
「今日のは結構美味しかったでしょ? ……まぁ、おばさんが手伝いに来てくれたからなんだけど」 とはにかんで見せる。
エリカ
「うん、モニカにしては随分頑張ったじゃないの。……って、なぁんだ。おばさんが来てくれてたんだ」
モニカ
「わ、わたしにしてはって何! 確かにおばさんの力はあるけど……わたしだって出来る日は頑張って練習してるんだし、始めに比べれば上手くなったんだよ?」
モニカ
「……っ……けほ……」 語気を強めたのがいけなかったのか、少し咳き込んで、胸を押さえて息を整える。
エリカ
「解ってる解ってる。冗談よ。前に比べたら、ほんとにずっと……あ」  「モニカ、大丈夫?」
モニカ
「……う、うん、大丈夫だから」 ふー……と深呼吸をすると、苦笑い。それ以上咳き込むことはない。
エリカ
「……そう」 落ち着いたのを見て、ほっと胸をなでおろし。
モニカ
「まぁ……おばさんにも教えてもらってるし、アカシャと一緒に色々作ったりもしてるしね。神殿のシスターたちも、色々教えてくれるし」
エリカ
「……料理の腕は、そのうち追い抜かされちゃいそうねー」 自分は料理する頻度は下がっていくし。軍属になれば、多分余計に。 「……」 話さなきゃなあ。
モニカ
「姉さんは外で仕事をしてくれてるんだもん。それなのにずっと家に居られるわたしが料理まで下手って……申し訳ないよ。……姉さん、どうかしたの?」 曇った表情に首を傾げて。
エリカ
「ああ、ううん。ちょっとね。まだ少し先のことなんだけど……何て言ったらいいのかな。転職?することになったから」 極力、なんてことはなさそうな口調で言う。
モニカ
「転、職? 冒険者、辞めるの?」 それだけなら、良い事だと思う。危険から離れられるのだから。
エリカ
「……」 多分今モニカが思ってるだろうこととは、逆だ。危険さで言ったら余計に増してるだろう。でも、言わないわけにはいかない。 「んー、そうなる、のかな? 軍人さんになるのよ。しかも、マグダレーナ様の直属部隊」 凄いでしょ、と言わんばかりの口ぶりで言う。
エリカ
「ああ、軍人って言っても、なんていったらいいのかな。マグダレーナ様がパトロンの専属冒険者、みたいな。そんな感じみたいなのよ。だからまあ、やることはそんなに変わらないんだけどね」
モニカ
「マグダレーナ様の、直属部隊? それって、物凄い事じゃ……え?」 誇らしげな様子に、そのまま素直に受け取って、自分で言葉にしてその意味を理解して、ぴた、と動きが止まる。
モニカ
「ま、待って……軍? 姉さん、軍人になるの……?」
エリカ
「だから、そう言ってるじゃない」 ちゃんと聞いてた?と、表情は笑いながら。 「なんていったってマグダレーナ様の直属だからね。報酬だってずっといいわよ」
モニカ
「……ちゃんと聞いてる! 聞いてるから混乱してるんじゃない……」 もう一度整理するように、少し俯いて頭の中で言葉を反芻して。 「……どうして姉さんはそんなに笑ってるの? お給料が良くなっても、今までより危なくなるんじゃないの……?」
エリカ
「ああ、ごめんごめん。流石にいきなりだったもんね」  「まあ、危険度で言えば、冒険者だって似た様なものよ。今までだって魔物や蛮族と戦うことは珍しくなかったんだし」
モニカ
「それはそうかも知れないけど……」 膝の上できゅっと拳を握って。 「……でも、どうしていきなりそんな事。姉さんだって、何でまるで何でもないことみたいに話せるの……」
エリカ
「そりゃあ、私だって、話を聞かされたときは戸惑ったに決まってるじゃない。まあ、でもほら、さっきも言ったけど、専属冒険者みたいな感じだから。ソルティアさんとかも一緒に誘われてね」
モニカ
「……そう言うなら、今までと同じように暮らせるの? 姉さんは、ちゃんと家に帰って来られるの?」
エリカ
「あー……」 それは。 「その……家には、暫く帰って来られなくなると思う。橋の向こうでの仕事が主になるみたいだから」
モニカ
「……わたし、嫌だな。姉さんが、そうやって遠くに行っちゃうの……」 表情を翳らせて何かを思い出すように呟いて。
エリカ
「……」 妹が、何を思っているのかは、解る。なにより自分自身、“そのこと”がずっと頭の片隅から離れないのだから。 「大丈夫よ。何ももう会えなくなるわけじゃないんだから。仕事が一段落ついたら、ちゃんと帰ってくるって」 けど、それを表には出したくはない。
モニカ
「……うん、必ず帰って来てくれるって信じたい。でも……」 どうして自分のせいで、両親に続いて姉にまでそこまでの負担を掛けなければいけないのか。そう思うと、とても肯定の言葉は口に出来ず。
エリカ
「それに、ソルティアさん以外にも、シャルロットやジャン……じゃなかった、ヤンファさんもいるしね。今まで一緒に仕事してきた皆が一緒だから、そういう意味でも、ずっと気楽に仕事できそうなのよ」
モニカ
「……ごめんね……わたしのせいで、いつもそうやって、無理させちゃってるんだよね」 多少仲良くなれたのは事実なんだろう。でも、元々冒険者や軍人になんて向いている訳がない。
エリカ
「……もう、何謝ってるのよ。そりゃまあ、冒険者とか軍人が楽な仕事だなんて、口が裂けても言えないけど」
エリカ
「別に、モニカが気にすることなんてなにもないし、気にしたって仕方ないんだから」
モニカ
「だって……わたしが病気なんかじゃなかったら、もっと普通に……姉さんも好きなことをして暮らせてたはずなのに」
モニカ
「いつもそう言ってくれてるけど……やっぱり、気になっちゃうよ」
エリカ
「もう、だからってモニカが申し訳なさそうな顔しないの。悪いとしても、それはモニカ自身じゃなくてモニカの病気なんだから」
モニカ
「……うん、ありがとう」
エリカ
「それに、私は私がそうしたいからそうしてるんだから、ね」
モニカ
「……分かった。姉さんがそう言うなら、わたしは止めない。……でも、約束を破ったら、何が何でも連れ戻しに行くから」
エリカ
「……うん、ありがと。……大丈夫、ちゃんと帰ってくるから。モニカにそんな無茶させられないしね」 笑いながら。
モニカ
「……絶対だよ?」 約束、と右手の小指を立てて差し出して。
エリカ
「うん、約束」 此方も、右手の小指立てて、モニカの小指に引っ掛け。
モニカ
「……ん」 小指を結んだまま2,3度振ってから指を離す。 「……神様が、こんな病気すぐに治してくれればいいのにね」
エリカ
「……そうね」 本当に。そうなってくれれば良いのに。
モニカ
「……ふふ、なんて無茶を言っちゃいけないよね。わたしだけが辛い訳じゃないんだし、神様だてひとりひとりまで気を回してたら大変だよね」 なんて冗談らしく苦笑して。
エリカ
「それもそう、よね。まあ、モニカはちゃんと薬飲んで、無理せず過ごすこと、ね」
モニカ
「……うん、せめてこれ以上悪化しないように養生します」
モニカ
「姉さんが帰ってきた時に迎えられないなんて嫌だし、ね」
エリカ
「ん」 頷いて。 「それじゃ、モニカはゆっくりしてなさい。後片付けは私がやっておくから」 と席を立つ。
モニカ
「ううん、そのくらいは手伝うよ。今はそんなに体調は悪くないし」 続いて立ち上がって、それを手伝おう。
エリカ
「……ん、解った」 そう言うなら、と頷いて。食器の後片付けに入ろう。

幕間 了