虚ろの輪音

第一部 第四話後 幕間Ⅱ

幕間

GM
襲撃事件から4日。ユニットの調査結果が出るまでは大々的に動くようなこともなく、大きな仕事もその他には入って来ていない。
GM
しかし妹の様子は芳しくないままで、少しでもその薬代などを……と思う君は、人手の足りていない〈宵の明星亭〉にてアルバイトをする日々を送っている。
#エルシオーネ
ふぅ。お掃除はこのくらいでいいでしょう」 店じまいの時間が近くなり、君と同じく掃除に当たっていたエルシオーネが額の汗を拭いながら言った。
エリカ
「ん、分かった」 と言いつつ此方も汗拭い。 「ふぅ」 と溜息。
#エルシオーネ
「今日もありがとうございました。すみません、いつもならマスターに8割は担当させるのですが、今日は腰痛でダウンしていて」
エリカ
「ああ、いいのいいの。こっちだって貰えるもの貰ってるわけだし、気にしない」 8割発言はスルーしつつ。
#エルシオーネ
「あとの処理は私だけで大丈夫ですから、エリカさんは今日は上がってくださってかまいませんよ。あ、その前に何か飲みます? 片付けてしまうと面倒ですし、今のうちならサービスしますよ」
エリカ
「ん、じゃあ何か適当に……あ、前みたいなヘンな飲み物はやめてね。……やめてね」 大事なことなので。
#エルシオーネ
「前にお出ししたのは何でしたっけ……。日々新しい飲料を開発しているので、どれをお出ししたかはっきり覚えていなくて」 と言いつつカウンターに引っ込んでいった。
エリカ
「別に既存の飲み物で十分だと思うなあ……」 何が出てくるんだろうこわい。
#アラン
「♪~」 それと入れ替わりに、夜だというのにぴゅーぴゅー陽気に口笛を鳴らしながら入って来た男が一人。
エリカ
「……?」 あれこの時間に来客とな、と振り返って。 「……もう店仕舞いの時間ですよアランさん」 なんだお前かと言わんばかりの目線で。
#アラン
「あん? 地味子じゃねェの」 閉店ぎりぎりに誰か居るとは思ってなかった。口笛を止めて
#アラン
「そう汚いモノを見る目で見るなって。ちゃんと風呂は毎日入ってんぜ?」
エリカ
「存在自体が汚物なのはどうしようもないと思いますよ」
エリカ
「あとその呼び方やめて下さい」 じと。
#アラン
「いやァ、周りに居るのが派手でどうしてもなァ……」
エリカ
「派手なのと比べないでください!」 私はふつうです!
#アラン
「つーか、いつの間に俺汚物扱いされるまで評価が落ちてたんだ」 ちょーびっくりだわ。 「人はいつでも何かと比べられるイキモンだからなァ……」 わざとらしくさとったような表情で。
エリカ
「まあ冗談です」 真顔で。
#アラン
「冗談の顔じゃねェ気がすんだけどなァ」
#エルシオーネ
「エリカさん、ご要望に応えて今日は普通にノンアルコールカクテルをおや、アランさん」
エリカ
「あ、良かった普通だ……」 ほっとしてエルの方見つつ。
#アラン
「よォ、悪いな、閉店間際に」
#エルシオーネ
「いえ。あ、でもマスターは今腰痛でダウンしているので、ご報告ならもう少し後にしてあげてくださいね。代わりに、飲み物奢りますから」
#アラン
「おっ、ならとびっきり美味いのを頼むぜェ」
#エルシオーネ
「分かりました。新作・なんかの蛹カクテルを持ってきますね」
エリカ
「……」 蛹て!
#アラン
「何かやばい名前が聞こえた気がするが、俺は聞かなかったことにして……と」 どかっとその辺の椅子に腰掛けた。
エリカ
「ところで報告って……依頼でも受けてたんですか」
#アラン
「ここ4,5日くらいな。色々調べることがあってよ」
エリカ
「ふうん……意外と仕事してるんですね……」
#アラン
「意外とってなんだよ。アンタらと一緒した時だって、結構働いただろ?」
エリカ
「まあそうですけど……。普段おちゃらけた態度だからですよ」
#アラン
「能ある鷹は爪を隠すって言うだろ? それだよ、それ」
エリカ
「……自分で能あるって言っちゃうんですか」
#アラン
「自分に自信を持つ事も大事だぜ? 卑屈になりっぱなしじゃァ気も滅入っちまうしな」
#エルシオーネ
「お待たせしました。なんかの蛹カクテルです。アルコールは入っていませんから、どうぞご安心ください」 濃い緑色の液体が運ばれて来ました。こぽこぽと泡立ってます。
#エルシオーネ
置くだけ置いて、エルシオーネはさっさと奥に引っ込んでいく。
#アラン
「こいつは……かつてない一大スペクタクルの予感だぜ……」
エリカ
「……」 うわあ。ちょっと距離取ろう……
エリカ
「それはそうかもですけど、自分でそういう事言っちゃっていいかどうかとはまた別です」
#アラン
「心の中で俺は優秀なんだぜ馬鹿どもーとか思ってるだけの陰険野郎よりはマシだろうよ」
#アラン
言いつつ、グラスに手を伸ばして飲んだ。 「……アレ、意外といけるな」
エリカ
「確かにそれはそれでどうかと思いますけど……」  「……ええ?」
#アラン
「まァだから適度に自分に自信を持つのは悪くない。言うのも悪くない」 うむ。 「ま、それでもあの襲撃事件は大胆すぎて予想してなかったけどよ」
#アラン
「飲むか?」 まだ泡立ち続ける液体の入ったグラスを差し出した。
エリカ
「……」 ぶるぶる。首を横に振った。NO。絶対にノゥ>飲む?
エリカ
「……調べてるのってそのことなんですか」 襲撃。
#アラン
「事件そのもの、じゃァねェけどな。ま、その内地味子たちにもお鉢が回ってくるんじゃねェかなァ」 あ、そ、残念と言いつつグラスを下げて。
エリカ
「……そうですか」
#アラン
「一番深く関わってる冒険者がアンタらだからなァ」
#アラン
「そいや、そのせいかは知らんが、妹さんの調子が悪くなったっつー話も聞いたな」
エリカ
「……ええ、まあ」
#アラン
「こんな時間までここでバイトなんざしてんのもそれが理由、ってか?」
エリカ
「別に……バイトなんて、そう珍しくもないことじゃないですか」
#アラン
「でも、アンタらが関わる案件の報酬は大体破格だ。フツーに暮らしてるだけなら二、三人養ったって余裕は出るだろ」
#アラン
「その状況でバイトする程ワーカーホリックにゃ見えねえし、豪遊して金使い果たすようなキャラにも見えねェからなァ」
エリカ
「……ちょっと高い薬が必要になったんです。それだけですよ」 むす、とした顔で。
#アラン
「あー、何か悪い事聞いたか?」 むすっとされたわ。
エリカ
「別にそういうわけじゃ、ないですけど……あんまり人様にぺらぺら話すことでもないですし」
#アラン
「真面目だねェ」
#アラン
「誰かに話した所で、そう悪い方向に変わるもんでもねェと思うけどな」
エリカ
「だからって、良い方向に変わるとも限らないと思いますけど」
#アラン
「そうでもないだろ。少なくとも、親しい相手なら吐き出しゃ楽になる部分はあるし、何かしら手伝ってくれようって奴も居るだろうよ」
#アラン
「そんくらいの関係を築けてる相手が居ない、ってんならまァ、話は変わっちまうけどよ」
エリカ
「ご心配なさらずとも親しい人には話しますし、手伝ってくれる人だっています」
#アラン
「ならいいが、少なくとも俺の目にゃ、アンタはそうやって自分の中に押しこみがちなタイプに見えるんでね」
#アラン
「あと、あの4人の中じゃ一人だけ浮いてるんだよな。まァこりゃ悪い意味じゃなくて、あの3人がちょっと変わってるっつー方が正しいんだが」
エリカ
「……別に押し込んでなんかいません」
エリカ
「……何が言いたいんですか」
#アラン
「じゃ、何でさっきからやたら思い詰めた顔やら口調なんだろうな」
#アラン
「別に何がしたいとかはねェけど。そうやって自分で何でも解決しようとしてたら、いつかおかしくなっちまうんじゃねェかと思ってな」
エリカ
「喧嘩売ってるんですか。大した意図もないのに、あれこれ好き勝手言わないで下さい」
#アラン
「そうやってすぐにカッとなっちまうのが、余裕のない証拠だろうがよ……」
#アラン
「ま、実際に真面目過ぎて何でも自分の中に押し込んで、歪み始めちまってる奴を知ってるもんでね」
エリカ
「~~」 怒鳴り声を上げてしまいそうな気持ちを抑える。言葉を飲み込む。飲み込め。
エリカ
「……そーですか。じゃあ、お説教はその人にしてあげてください」
#アラン
「ほら、また何か飲み込んじまった」 肩を竦めて。 「生憎と、今は会える状況に無いんでね」
エリカ
「……。もういいでしょう。アランさん、仕事の報告しにきただけですよね」
#アラン
「ああ、そんだけだ。そのついでに、知り合いが居たんで世間話をしたっつーところだな」
エリカ
「……」 バツの悪そうな顔。
#アラン
「まー、俺みたいな素性の知れない奴にゃ話す必要のない事だとは思うが」
#アラン
「仲間にゃ、悩みをぶちまけるくらいはしてもいいんじゃねェの」
#アラン
「これ以上言うとマジで怒られそうだし、今日は此処で退散すっかねェ……。そろそろおっさんも復活してんだろ」
#アラン
そう言うと、残ったなんかの蛹カクテルをぐいっと煽った。
エリカ
「……ご忠告どーもありがとうございます」
#アラン
「くかか、全然誠意がないぜ」 笑って立ち上がろう。
エリカ
「……」 むす。
#アラン
「じゃ、俺はおっさん所に行ってくんぜ。また今度なァ」 肩越しにひらひら手を振って、奥へと消えていこう。
エリカ
「……すいません」 消えてく背中に呟く。
エリカ
「……………」
エリカ
がんっ、とカウンターを蹴った。 「…………痛い」
エリカ
「…………何やってんだろ、私……」

幕間 了